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金融危機時の機関投資家の投資戦略の振り返り


 金融危機の事例として、欧州債務危機とリーマンショックを取り上げ、機関投資家の投資行動を振り返りたいと思います。皆様は当時のマーケットの動きを覚えておられるでしょうか。
 また、機関投資家の投資戦略を具体的な事例を含めて解説したいと思います。個人投資家の方々にも、参考になると思います。よろしくお願いいたします。

欧州債務危機

 まず、ご紹介したい例は、2010年代前半の欧州債務危機の時の日本の投資信託の運用についてです。当時、日本では史上最大と言われていた「グローバルソブリン」という投資信託があり、全盛期では5兆円以上の資産を運用していました。

「グローバルソブリン」の運用とリスク

 この投資信託は、当時の国際投信(現在の三菱UFJ国際投信)という会社が運用するファンドで、三菱UFJ銀行の窓口販売で大量に残高を拡大していました。当時この分配金の金額が高いファンドほど人気があり、運用会社はこの分配金の水準を少しでも高くしようとしていました。
 
しかし、リーマンショックの後の金融緩和で世界中で金利が低下したため、この分配金を維持するための運用が難しくなっていきました。そうすると、本来は分配金を下げていくしかないわけですが、この「グローバルソブリン」は、業界でナンバーワンの高い分配金を維持しようと、リスクの高いギリシャ、イタリア、スペインなどの債権を増やしていくことになりました。

欧州債務危機の結果

 そうした中で、欧州債務危機が起こりました。この欧州債務危機で南欧の国債は大暴落しました。
 「グローバルソブリン」というファンドはどうしたのかですが、欧州債務危機の初期の段階で、元々ギリシャなどの債券をたくさん持っていたわけですが、それをさらに増やしていったと言われています。大暴落の中で「グローバルソブリン」は、さらに傷口を広げてしまいました。結局、傷口を拡大した後に損失を確定し、南欧国債から多くの資金を引き上げることになったと言われています。

投資信託の運用とリスク許容度

 投資信託という機関投資家の場合、お客さんの資産を運用しているため、損失がそのまま顧客の損失になってしまいます。こうした運用では、少々失敗しても満期まで待てばいい、という運用はできないわけです。常に運用状況を説明する責任もありますし、大きな失敗をすると改善策を示さないといけなくなります。そういう意味ではリスク許容度が低いと言えます。
 それにもかかわらず、「グローバルソブリン」の運用担当者は、最初に南欧国債で損が出た時に、そこで損を確定して手を引くのではなく、さらにリスクを取って損を取り返そうとしてしまったわけです。その結果、さらに損失が膨らんだところで、損を確定せざるを得なくなった、これは業界では過度なリスクを取ってしまった例として語り継がれています。

リスク許容度の高い投資家の投資行動

 一方、リスク許容度の高い投資家の投資行動について、面白い事例を紹介しようと思います。リーマンショックの時に、それまで有効だと考えられていた様々な運用手法において、予想外の大きな損失が生じました。そのため、リーマンショックの後、ポートフォリオのリスクをコントロールする方法について何が有効だったのか、振り返る研究が盛んに行われました。その結果、リーマンショックの前後で最も安定したリターンを獲得したのは、年金運用などがよく採用している資産配分を一定に保つ戦略だったとされました。
 リーマンショックの時、株価は大きく下がりましたので、放っておくとポートフォリオの中で株式のシェアが下がってしまいます。逆に、債券の価格は上昇していました。そのため、株価が暴落する中で株を買って、債券の価格が上昇する中で債券を売っていた戦略、つまり、資産配分を一定に保つ戦略が結果的に最も高いリターンを獲得していたということでした。
 
年金基金がなぜこうした戦略を取り入れたかと言いますと、年金というのは支払いまでに非常に長い期間がありますので、比較的リスクを取った運用ができるというのがあります。この高いリスク許容度がこうした戦略を可能にしたと考えられています。

機関投資家の行動と個人投資家への教訓

 過去の機関投資家の運用を振り返ると、暴落した時に損切りをしなければならなかった投資家よりも、淡々と安くなったところで買っていた投資家の方が運用成績は良好だったということです。
 
これを個人投資家に置き換えると、比較的リスクの取れる資金を運用している人であれば、もし急な暴落に見舞われても、慌てて損切りをするのではなくて、淡々と買い増しをしていくことが、長期的にはそれがリターンを高める可能性があるということです。
 一方、それほど高いリスクを取れない資金を運用していたり、あまり大きな価格変動を好まないという方は、急落に見舞われた際は早めに損切りをする方が、傷口を広げなくて済むかもしれません。

リーマンショック時の生命保険会社の投資行動

 もう一つ、リーマンショックの時の機関投資家の事例をご紹介しようと思います。それは生命保険会社の投資行動です。生命保険会社というのは、大きなリスクを取った資産運用をしています。お金を預かってから保険の支払いまでに長い期間がありますので、比較的リスクの高い運用が可能というのがあります。
 高度成長期から、顧客から預かるお金が増えていく中で、その資金で企業の株を購入し、株の値上がり益を取りに行くのと同時に、企業に生保レディーを送り込み、保険の販売を拡大していくという戦略を取ってきました。

保険契約が伸びた理由として、中流化、家族制度の変化、そしてレディが販売するというビジネスモデルの確立の3つが大きく影響を与えたと見られています。

日本人と保険契約の歴史

 そのため、生命保険会社は日本株を大量に持っていました。そうした中で、リーマンショックの時に株価が大きく下落し、大きな問題になりました。

優先順位とリスク管理

 多くの保険会社が、会社の株を売ってしまうと、もう保険の販売ができなくなってしまうという理由で、株を売ることができず、保険の支払能力を示す指標がどんどん悪化しました。かなり危険な状態に陥ってから、結局、株式を一定程度売却することになったのですが、この時言われたのが優先順位についてです。
 既存の保険契約に対して支払能力を持つことは、保険会社の義務であり、これから営業しにくくなるとか、そんなことよりもまず支払能力を維持することの方が大事なのは明らかです。にもかかわらず、多くの保険会社がなかなか株を売ることができなかった。そのため、社会から批判を受けました。保険会社の営業部門が社内で発言力を持っていたことなど、そうしたガバナンスの問題もあったのですが、機関投資家としての優先順位をしっかり見極めることが重要ということがこの時、改めて認識されました。

まとめ

 金融危機時の機関投資家の投資行動を紹介しました。個人投資家の方々も、ご参考にしていただければ幸いです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


ご参考


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