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シリコンバレー銀行破綻の振り返り


 2023年3月10日にシリコンバレー銀行(SVB)が破綻しました。シリコンバレー銀行破綻の原因を振り返ります。また、破綻の原因の一つと言われているMBS(不動産担保証券)の解説をしたいと思います。

MBSについて

 シリコンバレー銀行が破綻に陥った原因の一つとして、運用資産の価格下落が挙げられています。その運用商品の一つにMBS(Mortgage-Backed Securities:日本語では不動産担保証券)があり、MBSの価格下落が破綻の一つの要因となったと言われています。MBSは、不動産のローンを束ねて証券化した商品で、その中に多数の不動産ローンが組み込まれています。
 リーマンショックのきっかけとなったサブプライムローンと同じような商品であると思われるかもしれません。しかし、MBSには信用力の低い人々が借りたローンだけでなく、信用力の高い人々向けのローンも含まれています。

モーゲージ証券(MBS)
不動産担保融資の債権を裏付けとして発行された証券(主に住宅ローンを裏付けとして発行された証券)です。多くは政府系機関や金融機関により元利金の支払いが保証されており高い信用力を有していますが、期限前償還のリスクがあるため、比較的利回りが高くなっています。

年金積立金管理運用独立行政法人HP

MBSと満期までの期間について

 シリコンバレー銀行破綻の件では、信用力の低い人々のローンにおいて返済ができないということが問題になっているわけではありません。問題となったのは、MBSという商品の特性です。
 MBSは、不動産のローンを束ねて組み込んだ商品で、その中に組み込まれているローンからのキャッシュフローに直接影響を受けます。そのため、住宅ローンを借りている人が満期までに繰り上げ返済をすると、MBSは満期になる前に前倒しで部分的に償還され、残高が減少します。繰り上げ返済が多く起こる状況では、MBSの残高はどんどん減少します。逆に、繰り上げ返済が少ない状況では、残高はそのままとなります。このように、債券の満期までの期間が状況によって変わるというのが、MBSの難しいところです。

MBSと金利について

 繰り上げ返済が起こりやすい時期と、それが少なくなる時期が発生することの、要因の一つは金利です。
 
金利が低くなると、ローンを組んでいる人たちは借り換えをした方が得と判断し、前倒しでローンの返済を行います。これにより、MBSの残高はどんどん償還されて減っていきます。逆に、金利が上がると、低い金利で借りたローンをそのまま持っている方が得と判断し、多くの人が繰り上げ返済をしなくなります。
 そして、金利が上昇すると、MBSの残存期間が長くなることで、それまでの想定以上に大きく価格が下落するので、金利上昇時の価格の下落がどの程度になるのかを予想するのが非常に難しい金融商品となっています。

銀行の貸借対照表について

 銀行は通常、顧客の預金などで資金を調達し、融資(貸出金)や有価証券への投資を行って利ざやを稼いでいます。しかし、顧客の預金は短期の負債である一方、融資(貸出金)や有価証券への投資はそれより期間の長いものである場合が多くなっています。つまり、負債である顧客の預金よりも、資産であるローンや有価証券の方が期間が長くなっているということです。

MBSとALMの関係

 上記の資産と負債の期間があまりにも乖離すると、金利変動が起こった時に価格変動のリスクが大きくなってしまうため、そうならないように運用するのがALM(Asset Liability Management)というものです。これは、資産と負債の期間を一致させることで金利変動リスクを管理する手法です。シリコンバレー銀行破綻の件では、金利上昇によってMBSの残存期間が想定よりも長くなり、価格が大きく下落してしまったことで、資産が減りすぎてしまったということです。つまり、MBSが一つの原因となり、ALMがうまくできなくなってしまったということです。

MBSの市場規模とその影響

 MBSの発行残高は、だいたい11兆ドル(日本円で約1400兆円以上)とされています。アメリカの債券市場では国債の次に大きなマーケットで、2008年のリーマンショックの後に米国債の発行残高が増える前は、このMBSがアメリカの債券市場で長らく一番大きな市場でした。
 巨大なマーケットであるMBSには、世界中の投資家が投資をしています。日本の機関投資家も多くMBSを保有しています。

銀行破綻の歴史(S&L危機)

 金利上昇でMBSの価格が下落して銀行が破綻するという問題は1980年代の金利上昇局面で同じようなことが起こっています。S&L危機と言われるもので、S&LがMBSをたくさん保有していたのですが、金利上昇でMBSの価格が下落し、金融機関が次々と連鎖破綻する事態が発生しました。取り付け騒ぎのようなこともたくさん起こり、アメリカ経済は非常に混乱しました。
 「資産と負債の期間をあまり乖離させないようにしましょう」というALMという概念が生まれたのがこのS&L危機がきっかけだったと言われています。1990年代に入って、日本にもこのALMという概念が入ってきました。
 しかし、2010年代に入り、世界中で低金利政策が行われる中、ALMをやっていると収益が獲得できないということで、資産側で長いローンや超長期債を保有するのが当たり前になり、ALMを無視した運用が増えてきました。
 
その結果、2023年にS&L危機と同じようなことが起こってしまった。人々が過去の経験を忘れてしまっていることに愕然とせざるを得ない状況です。

総括

 シリコンバレー銀行の破綻とその背景にあるMBSと金利の関係、そしてその問題の深刻さについての解説しました。シリコンバレー銀行の破綻は、特別な資産運用やリスク管理を行っていたわけではない中で起こりました。1980年代の経験などを踏まえると、他にも同様の問題を抱えている銀行があるのではないかという気もしてきます。


ご参考

 農林中央金庫は、他の銀行に比べて比較的長い債券を持っていることに加えて、不動産担保証券(MBS)を大量に保有していることでも知られています。この不動産担保証券(MBS)という金融商品は、金利が上昇すると満期までの期間が伸びる傾向があります。

農林中央金庫の損失と増資の解説

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