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日本人と保険契約の歴史


日本人と保険契約

 今回のテーマは「なぜ日本人は保険が好きなのか」です。一般的に、日本人は保険契約を多く結んでいると言われ、過剰に保険に加入しているとも言われています。しかし、実際には、すべての日本人が保険を好んでいるわけではありません。日本は先進国の中でも比較的公的な社会保障制度が充実している国です。それにもかかわらず、生命保険の契約をしている人が非常に多いです。これは日本人が安全思考だからという理由だけではありません。
 私の見解としては、日本人はやや過剰な保険契約をしている傾向があり、その結果、保険会社などの金融機関が恩恵を受けていると考えています。では、なぜこのような状況になっているのでしょうか。その背景について解説します。

日本人の保険加入率

 まず、日本人がどれぐらい保険に加入しているのかについて簡単に説明します。生命保険文化センターが提供しているデータによると、民間生命保険の世帯加入率は約8割、全生命保険では9割の世帯が加入しています。これは非常に高い加入率であることが分かります。

出所)ライフネットネット生命HP
(公財)生命保険文化センター「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」

保険契約の歴史と推移

 では、いつからこの加入率が上昇したのでしょうか。生命保険の世帯加入率というデータはあまり古くまで遡ることができませんでしたので、代わりに人口に対する保険契約の割合というデータを見てみましょう。

出所)ニッセイ基礎研究所HP

 上記は、総務省が公表しているデータを基に、ニッセイ基礎研究所がまとめたものです。戦前の1935年の時点で人口比の簡易保険契約の比率は34.3%でしたが、1945年には123.3%まで急増しました。

戦時中

 これは、戦争で死んでしまうかもしれないという恐怖から保険契約の需要が高まったこと、そして国が東アジアでの占領政策を実施するにあたり、簡易保険で集めた資金を投資に回すために積極的に保険の販売を行ったことが要因とされています。
 この時期、民間の保険会社やその他の金融機関は占領下にあったアジア地域で金融ビジネスを拡大しました。保険会社もこの時期に朝鮮半島、満州、中国など多くの地域に進出し、金融ビジネスを拡大しました。これにより、この時期に保険契約が急速に増えました。

戦後

 戦後、これらのアジアでのビジネスは全て撤退し、契約数は大きく減少しました。

高度経済成長期の保険契約

 その後は緩やかに契約数が増加し、特に1960年代以降の高度経済成長期には経済成長とともに契約数が増えていきました。
 この時代に保険契約が伸びた理由として、中流化、家族制度の変化、そしてレディが販売するというビジネスモデルの確立の3つが大きく影響を与えたと見られています。

中流化

 中流化とは、いわゆる中間層と言われる資本家階級と労働者階級の中間に位置する人々のことを指します。日本はよく「1億総中流」と言われますが、このような社会構造が形成されていく中で保険が売れるようになったというのが一つの要因です。
 保険というものは、元々一家の大黒柱がなくなったりして家計の収入がなくなってしまったら困るということで、中間層に最もニーズがある金融商品です。

家族制度の変化

 次に、家族制度の変化です。保険も社会保障もなかった時代、病気になったり高齢になったりして働けなくなったら、家族で助け合うしかありませんでした。そのため、日本は3世帯で一緒に住むのが当たり前でした。
 しかし、戦後の高度経済成長期に都市部への人口流入が進み、核家族化が進みました。これにより、家族で支え合うというセーフティーネットが機能しなくなり、それが保険のニーズにつながったと考えられています。

レディが販売するというビジネスモデルの確立

 最後に、レディが販売するというビジネスモデルの確立についてです。戦後の日本では、多くの戦争未亡人がいました。当時、女性の社会進出の機会は限られていましたので、夫を失った女性たちが一人で子供を育てていくのは非常に困難でした。そうした中で、保険会社は戦争未亡人の女性たちを採用して保険を販売するというビジネスモデルを確立しました。
 これにより、多くの戦争未亡人の女性たちが経済的な安定を得ることができ、当時は画期的な仕組みでした。また、戦争未亡人で実際に夫がいなくなって困っている本人たちから、「大黒柱が死んだ時のために保険に入っておいた方がいいよ」と進められると、それほど説得力のあるものはありませんでした。このレディというビジネスモデルの確立により、日本での生命保険契約が急増したと考えられています。

今後の見通し

 生命保険契約が増えた歴史を振り返りました。単純に日本人がリスク回避的だっただけではなく、長い歴史の中で様々な要因があったというのが分かると思います。
 今後、日本は人口減少が進み、保険の加入率が下がり、保険会社の国内でのビジネスは縮小していくということが予想されます。みんながやっているからとか営業マンが必要と言っているからとかではなく、自分のライフスタイルに照らし合わせて本当に保険が必要かどうかを考えるべきでしょう。
 日本の保険会社がどのような方向に進んでいくのかは、引き続き注目していきたいと思います。

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