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『人を選ぶ技術』

"If you judge people, you have no time to love them"
「人を決めつけることは、人を愛することからもっとも遠い行為だ」
Keep learning. Keep loving.
「学び続けよう。愛し続けよう」

本書より引用

まずカバーや表紙の手触りが良いなと思った。タイトルにも惹かれた。人を選ぶのに技術ってあるの?!編集者の狙い通りの反応をしたのかもしれない。著者はエグゼクティブヘッドハンティングをして来た小野壮彦さん。本質的でワクワクする内容だったので一気読みした。人を見る目はセンスだとよく言われるけど、著者曰く、トレーニングすれば習得できる技術であると。著者の長年の経験に加え科学的根拠に基づき系統だって書かれているので説得力がある。一読の価値ありだ。

「人を選ぶ」ことの重要性

経済社会において「ヒト・モノ・カネ」の資本は重要である。一昔前は、”ヒト” =コストの時代だった。昨今は人材というように、コストだけではなく財産・価値・投資として認識され、良い人材の確保は企業の存続を左右するほどの重要な問題になっている。また、Well-beingの概念が広がりつつある社会において、健全な組織環境の中でご機嫌でいるために「誰と一緒に過ごすか」は非常に重要な要素だ。当然自分の属する組織に新しい人を入れるときは選考を吟味したい。採用面接は本当に大変だと経験者からよく聞かされて来た。私自身は人を選考するというような経験がないのでその苦労を味わっていないが、人を見る目のない元上司が立て続けに採用を3人失敗し、その結果自分の仕事に多大なる影響を被った苦い経験をしている。本書にあるEVIL (邪悪な人)と分類される人を雇ってしまうとその後が本当に大変なのである。良い雰囲気で気持ちよく働ける環境を作るためにも本書にある技術を取り入れることは有用だと思えた。

本書の本質的なメッセージは以下と受け取った。
・ 人の表面だけでなく見えないところも探る努力をする。
・ 自分自身を理解し整える。
・ 人は変化するものであると認識し見続ける。
・ 人を見る力は平和に貢献できる。

人を4つの階層で捉える

本書のメインの部分だ。人を見るための思考の枠組みとなるフレームワークは4つの階層からなる。人物の構造を建築物のように地上1階から地下3階までの階層で捉えるのだ。1階は地上に出ているのでわかりやすいが、地下へ深く掘り下げて行くほどわかりにくいが核心の部分となる。

人を4つの階層でとらえる。(本書より抜粋)

地上1階: 経験・知識・スキル

履歴書やプレゼンなどから伺えるわかりやすい部分である。おそらくこれまで一般的であり、人を見る目がなかった元上司もほぼこの階層で決めてしまっている。高学歴、経験豊富、風貌が良い、コミュニケーション能力が高そう、など認知バイアスに影響されやすい階層である。変化のしやすいところなので、経験やスキルが現時点では不十分であってもさらなる階層の評価でポジティブになるかもしれない。

地下1階: コンピテンシー

「どんなシチュエーションでどういうアクションをとりがちなのか」という相手の将来行動を予測するのに使える人事業界では頻用の概念だ。「成果志向」、「戦略志向」、「変革志向」の3つが特に重要な”パフォーマンスの高い人の行動特性”であり、コンピテンシーを見抜くにはエピソードを話してもらい、その人が具体的にどういう行動を取ったのかにフォーカスして深く話を聞く必要がある。

地下2階: ポテンシャル

人選びは時代と共に変化して来た。これまでは、身体的能力評価の時代(体が大きくて強くて健康な人が魅力的)、IQ評価の時代(知能が高い人が魅力的)、コンピテンシーとEQの時代(能力と感情知能の高い人が魅力的)であった。今は、ポテンシャルが高い人が魅力的な時代が始まっているとのことである。過去だけではなく不確実性要素の多い未来・ポテンシャルを評価する時代だそうだ。

人間の器をコップで表す(本書より抜粋)

「ポテンシャル・モデル」のコンセプトは2014年に紹介されている。そしてこれまでのデータに基づいてポテンシャル・モデルは因数分解され、4つの因子が人の器の大きさ、伸びしろを評価するのに重要であることがわかった。

4つのポテンシャルの因子
① 好奇心ー吸収・更新(赤のイメージ)
② 洞察力ー集める・繋げる(青のイメージ)
③ 共鳴力ー結ぶ・響く(黄色のイメージ)
④ 胆力ー腹決め・律する(黒のイメージ)

この4つの因子の中で、一番わかりやすく牽引力がある因子は「好奇心」であり、他の3つの因子を育むようなイメージとなる。これらの因子は能力として”できる”とか”持っている”とかではなく、そういう状態でいることにエネルギーがわくかといった無意識の熱量のようなものらしい。人を選ぶ際、ポテンシャルの評価は能力ではなくエネルギー(熱量)を見る。

地下3階: ソース・オブ・エナジー(エネルギーの源泉)

エネルギーの源泉とはその人の精神性と言い換えることができる。人間力にも通ずるのかな。エネルギーの源泉なので地底にあるマグマのような爆発力(情熱)を生むエネルギーである。「使命感(ミッション)」と「劣等感(コンプレックス)」がソース・オブ・エネジーを構成する。使命感や劣等感が強い人は人生の発展や成長の原動力が大きいと言える。

相手の本質を見抜くために必要なこと

まず、① 自らの心を整える。見られる側も見ている。集中して会話を楽しみ良い時間を過ごすことを心がける。② 相手をリラックスさせる。感情は伝播する。自分がリラックスして良い気を纏うことが必要である。③ 相手の人物像をあぶりだす質問の仕方を工夫すべし。エピソードを引き出すことに徹する。興味を持ってディープ・ダイブ(それで?それで?といった深掘り質問)する。④ ボーっと見て感性を活性化させる。つまり周辺視野を広げて俯瞰する。一点に集中して焦点を当てると視野が狭くなり全体が把握できなくなる。無意識に浮かぶものや直感をスルーしない。違和感がある場合はその感情を無視しない。かといって、自分の感覚を過大評価するのも危険だ。バランスが必要である。つまり自分自身の総合力が試される。そして⑤ 自分の無自覚な癖やバイアスに気づく。⑥ ジャッジをしたり決めつけない。人は変化していくものだと認識すべし。

感想

面白い本だった!小野さんのような人と面接をしてみたいと思った。人が纏う空気感ってある。たとえば、休憩室で談話しながらランチをとっているとする。そこへ見るからにイライラ、プンプンしている人が入って来たらこっちまでなんだか嫌な雰囲気になって美味しくご飯が食べれなくなる。逆に、ふんわりしてたりパッと華やかな人が入って来たら、雰囲気がさらに良くなって楽しくランチが継続できたりする。波長が合うという言葉があるように、人は何かしらの波を発していて、周りの人はそれに反応するのだろう。これからはこういう見えないものも評価して行こうってことかな。自分がなるべく穏やかでハッピーでいるためにも人を見るスキルって大事だなって思った。


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