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シェイクスピア全集(松岡和子訳):⑯恋の骨折り損/⑰から騒ぎ/⑱冬物語/⑳じゃじゃ馬馴らし/㉒シンベリン

シェイクスピア全集を読もう!シリーズ第4弾。
まとめて5冊の感想を。

1)「シェイクスピア全集16 恋の骨折り損

ナヴァール王国(現在のスペイン東北部)の若き王ファーディナンドは、宮廷を学問芸術の華たるアカデミーにしようと決意し、3人の青年貴族とともに女性との交際を断ち学問に励む誓約を立てる。
ところがその直後、フランス王女が3人の美しい侍女を引き連れて外交使節として到着する。4人の若者は4人の美女にそれぞれ恋心を抱くのだが、、、。

裏表紙のあらすじ

タイトルは知っていたけど、読んだことはなく、最後は収まるところに収まる(人数割り切れるし)ドタバタ恋愛喜劇なんだろう、と予想。
でも、それなら「骨折り損」なんて言うタイトルになるかなあ?相手の気を引こうといろいろ苦労したけど、うまくいかなかったっていう話なのか、それともそんな苦労はもともと必要なかったのに、っていう話なのか?という疑問を持ちながら読み進める。
結末は、なるほど、という感じだった。ネタバレになるからやめておくが。

上品とまでは言えないけれど、一応、王や王女など位の高い方々の登場だけあって、言葉遊びもうまい!と思わせるような部分が満載で、庶民だけが登場する話より楽しめる気がする。

「訳者あとがき」が興味深い。
この話に登場するナヴァール王のモデルはフランス王アンリ4世で、他の青年貴族3人もちゃんとモデルがいる。アンリ4世はシェイクスピアと同時代の人物で、深読みすれば、カトリックとプロテスタントを行き来するさまが、恋愛に絡めて誓約を破ろうとする様子になぞらえたのでは?という感じ。
解説には、当時起こった事件も並んでいて、なるほど、と思う。

アンリ4世は、自身の婚礼に際して企てられたサン・バルテルミの虐殺に遭遇したが、カトリックに改宗して難を避け、1576年に再びプロテスタントに復帰し、1589年のアンリ3世の暗殺により王位を継承する。
その後再度カトリックに改宗して国内を平定し、1598年にナントの勅令を発布してカトリックとユグノーとの国内融和に努め、40年近くにわたる戦争を終結させた。戦後は戦争によって疲弊した国家の再建を行ったが、1610年に狂信的なカトリック信者によって暗殺された。

wikiより

と、こんな難しいことを考えなくても、気軽に楽しめばいいのかもしれない。モデルはいても、いわゆる元ネタはなく、シェイクスピアが自由に書いた作品だそうだ。

2)「シェイクスピア全集17 から騒ぎ」 


「から騒ぎ」というタイトルは知っていたけど、中身は全然。
でも、予想通りの恋愛喜劇で、ハッピーエンド。
ちょっとしたいい間違い―緊張からのこともあり、故意のこともあり―で、で笑いを誘う、言葉遊びが全開という感じの作品。
読むには気楽でいいが、訳すのは大変だっただろうなあ、と想像。


3)「シェイクスピア全集18 冬物語」 


タイトルも内容も全然知らずに読み始め。はじめは、ややおしゃれな言葉遊びの連発で、面白そう〜と思ったけど、だんだん嫌な展開になってくる。。

シチリア王レオンティーズは、妻のハーマイオニと親友のボヘミア王ポリクシニーズの不義を疑い嫉妬に狂う。しかし侍女ポーライナから王妃の死の知らせが届き、公開と悲嘆にくれる。
時は移り、16年後、一同は再開、驚くべき真実が明かされる。人間の再生と和解をテーマにしたシェイクスピア晩年の代表的ロマンス劇。

裏表紙のあらすじ

レオンティーズが急に嫉妬に狂いだす場面があまりに唐突で、しかも誰の助言も聞き入れず、冷酷な決断を下す。そうかと思うと突如後悔し始め、精神を病んでいるんでは?と思いたくなるけど、そんな描写はなく。
最終的には、若い男女が結ばれたり、和解したりと、見かけはハッピーエンドだけど、その前に亡くなった人もいるし、深い心の傷は一生いえるものではないし、複雑な気持ちになる。どうせあり得ない展開になるなら、すべて妖精のしわざでした~とか、魔法でみんな生き返りました~という方がまだ許せるのだけど。
「最後に読者を驚かせる」(だったか?)という解説があった気がするけど、その部分は予想通りで、全然驚かなかったし。
というわけで、微妙な作品。


4)「シェイクスピア全集20 じゃじゃ馬馴らし」 

ヴェローナの熱血紳士ペトルーチオは、パドヴァの大金持ちのじゃじゃ馬娘、舌鋒鋭いキャタリーナをあの手この手で口説き落とし、結婚にこぎつける。そしてじゃじゃ馬の「調教」に乗り出すのだが、、、。
その求婚者たちを交えながらくんずほぐれつの舌戦を繰り広げる軽快な喜劇。

裏表紙のあらすじ

読んだことはないけど、内容は何となく知っていて、あまり読む気がしないなあ、と思っていた話。妻の「調教」の仕方がひどい。暴力こそふるわないが、虐待以外の何物でもない。喜劇だなんてとんでもない。
ただ、感想をこれで終わりにしてはせっかく読んだかいがないので、もう少し考察。

カタリーナには美しくしとやかで求婚者が多数いる妹ビアンカがいる。
2人の父は、まずカタリーナが結婚してからでないと、妹ビアンカを結婚させない、という気でいる。
このビアンカをめぐって、求婚者たちがあの手この手を使う様子は面白い。
たくさん人が登場するので、いちいち確認しないと混乱するが。

本題に入る前に「序幕」があり、実はこの「じゃじゃ馬馴らし」全体が、長い劇中劇という設定だ。それによって、この話があり得ない話、としてとらえるべきだと示唆しているのかもしれない。
ところが、「序幕」はあるのに、「終幕」はなく、最初に登場した人たちがその後どうなったのかわからずじまい。実際に演じる時は適当に「終幕」を付けて演じたりもするらしいが、なんともすっきりしない終わり方だ。

5)「シェイクスピア全集22 シンベリン」 

ブリテン王シンベリンの娘イノジェンは、イタリア人ヤーキモーの罠にはまり、不貞を疑われる。嫉妬に狂う夫ポスチュマスの殺意を知らぬまま、イノジェンは男装してウェールズへ行くが、薬で仮死状態になった彼女の傍らにはいつしか夫の首のない死体が―。
悲劇と喜劇が入り混じり、波乱万丈の中、最後は赦しと幸福な結末を迎える「ロマンス劇」の傑作。

裏表紙のあらすじ

「罠にはまって、不貞を疑う」、「男装」、「薬で仮死状態」、など、他の作品で使った仕掛けがてんこ盛りで登場する。
その辺はそこそこ楽しめるが、全体のストーリーとしては、いくら変装したって夫や恋人の見分けくらいつくだろうとか、あまりにも無理な展開もてんこ盛りだ。

全体としては、シェイクスピアの創作だが、シンベリン王は、実在のブリテンの支配者クノベリヌスをモデルとし、また、挿入されるエピソードは「デカメロン」から引いてきたりなどしているとのこと。
あまり上演される機会のない劇のようで、タイトルすら知らない作品だった。

シェイクスピア全集に関する、過去の記事。


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