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【読書感想文】 "犬公方"と呼ばれた徳川綱吉の真実の姿を描く 『最悪の将軍』

私は歴史、特に日本史が好きなのですが、学生時代は授業が平安時代に入ったところから心に火がつき、戦国時代でその熱がピークに達したものの、大坂夏の陣で大坂城が炎上し、落城したと同時に燃え尽きてしまい、江戸時代の事柄に入ったときには教室の片隅で灰のようになっていました。

今思うと、なぜこんな面白い時代をないがしろにしていたのかと当時の自分の頬を引っ叩いて、目を覚ませたい気分になりますが、暴力はいけません。

しかしながら、江戸幕府歴代の公方様には申し訳ないと思いつつも、私にとって徳川15代将軍の名前をすべて覚えることは難儀なんぎでした。

それから時が過ぎたある日、のほほんと観ていたテレビ番組で流れてきた曲にいろいろな意味で衝撃を受けることになります。

その曲のタイトルは、

『BAKUFUってべろう!』

歴史ファンにはお馴染みの番組、『戦国鍋TV 〜なんとなく歴史が学べる映像〜』の『MUSIC TONIGHT』という歴史上の人物がアイドルとして登場する歌番組というなかなかにぶっ飛んだコーナーで披露されていた曲です。

15人の若い俳優さんが徳川15代将軍にふんし、各々おのおのの名前とそれぞれの治世ちせいでの出来事を歌詞にして、どこかで聴いたことがある気がするメロディに乗せて軽快に歌い、踊っています。

これが侮るなかれ、秀逸。

あくまでも個人的な感想ですが、この曲を何回か聴いただけで、それまでは「あれ、何だっけ?」と失礼極まりなく失念していたところでも、いつの間にか名前がすらすら出てくるようになりました。

極楽にいらっしゃる歴代の公方様はこれを見てどう思っているのか若干不安にはなりますが、真剣に観ているとなんとなくどころかかなり学べるので、徳川15代将軍の名前を覚えたいという方にはお薦めしたい1曲です。

徳川綱吉と生類憐れみの令

本日は、『最悪の将軍』(朝井まかて 著)をご紹介します。

主人公のひとりである徳川綱吉は、1646年2月23日(正保3年1月8日)に第3代将軍・家光の四男として生まれ、上野館林たてばやし藩主となりましたが、長兄ちょうけいである第4代将軍・家綱に跡取りがいなかったため養嗣子ようししとなり、そののち第5代将軍になった人物です。

そして、歴史の教科書にも登場する「生類憐れみの令」とは、綱吉によって100以上発令された動物愛護の法令の総称。

保護の対象は犬だけだと思われがちですが、条文のひとつにこう書かれています。

犬ばかりに限らず、そうじて生類、人々慈悲の心を本といたし、あはれみ候儀そうろうぎ肝要かんようの事
(犬だけではなく、すべての生き物に対し、人々は慈悲の心を基本とし、憐れむことがとても重要である)

このように、他の様々な生き物や人間の捨て子、傷病人、高齢者なども保護するよう定められていました。

"犬公方"の悪名が語り継がれる綱吉の真実の姿が描かれた物語

この作品は、生類憐れみの令の発令により"犬公方"と呼ばれ、その悪名が現代まで語り継がれている江戸幕府第5代将軍・徳川綱吉の治世ちせいと真実の姿、様々な問題と向き合う日々を綱吉と正室の信子の視点から描かれた物語。

先代の長兄ちょうけい・家綱の遺志を継ぎ、武力を捨て、命を尊ぶ慈愛に満ちた泰平たいへいの世を築くために次々に改革を断行するも、民にその真意が全く理解されないばかりか、歪曲わいきょくされてしまう悔しさを想い、涙がこみ上げました。

今日に至るまで、小説や映画、ドラマ、舞台など様々な作品で扱われてきた歴史的重大事件や度重なる大災害に見舞われたことも不運であったと感じます。

それでも最後まで信念を貫き通した姿は素晴らしく、綱吉と信子の夫婦愛の美しさにも心を打たれました。

徳川綱吉という人物のイメージが変わる作品です。

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P.S.

近年、徳川綱吉の評価が見直され、教科書に記載されている概要も変わっているそうです。

じゃあ、私たちが教科書で教わってきた、"生類憐れみの令は民を苦しめた悪政"というのは何だったのだ!

と思わずにはいられませんが、すべては長年の歴史研究の成果の賜物というわけで、何はともあれ、綱吉の名誉が挽回されていることを私は嬉しく思っています。

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