はっぴぃもぉる 030
今年もこの季節がやってきた。
クリスマス。
そして年末年始。
この得も言われぬ「年の瀬感」が私は堪らなく嫌だ。
理由なき華やぎ。
そんな言葉がピッタリだと感じるほどに私はこの時期が耐えられない。
とは言え理由はしっかりあるのだろう。
クリスマス。
大晦日。
正月。
祝うべきこれらがあるからこそ、そして1年を終え、短い休みに突入するその開放感を祝うという目的があるからこそ、
街は途端に華やぐのだろう。
しかしそれでも、ここまで理由が明確でも、私には耐え難い。これもまた事実なのだ。
そして、私がこの時期が嫌いであることの理由はもう1つある。
ある男に別れを告げられた時期がちょうどこの時期だったということだ。
その男は何の変哲もない、普通すぎる男だった。
交際期間もそれほど長くなく、10ヶ月。1年も持たずに破局を迎えることとなった。
恋に落ちたきっかけやどこを好きになったのかさえ今は言い表すことができない。
容姿も至って普通。標準といえば聞こえはまだ良く、凡庸と言えば非礼に感じるがそれでも許されるような気がする。
なぜそんな男のことを今もこうして思い出すのか。
それがわからないからこそこうして悩んでいるのだ。
至って普通とは言ったものの、普通ではないところが1つだけあった。
人格が変わるように感じたのだ。
それは「こいつ酒が入ると豹変するんだよね」といった類の変化ではない。
普通の人格が、その人格とは違うまた普通の人格に変わるのだ。
普通の人Aから普通の人Bへ。
そういった変化なのだ。
だからこそその変化はわかりづらく、単なる私の勘違いである可能性もある。
こんな話を友人や他の誰かにしたところでまともに取り合ってくれないだろう。
そんな彼のことが今も忘れられず(忘れられないと言えば未練があるように思えるだろうが未練は全く無い)、
私は居ても立っても居られず耐え難い嫌悪の対象であるはずの師走の街に出て行くことになるのだ。
あの男がまだこの街に居を構えていれば、きっとその姿もこの年末のどこかにあるはず、そう思うからだ。
そうして私は、特段着飾ることもなく家を出て、街へ向かう。
はっぴいもぉる 031へ続く
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