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11月11日は何の日?

11月11日は何の日でしょうか?

こう聞くと日本人の多くは「ポッキーの日」と答えるでしょうか。

確かにそのイメージはここ10年くらいで強く定着したかもしれません。

しかし、他国に目をやると、ポッキーの日なんてあるわけが無いのはもちろんのことですが、

いくつかの「今日は何の日?」があることがわかります。

まず、中国。
中国では11月11日は「光棍節」と呼ばれ、
独身を祝う国民的なイベントの日になっています。

これは、独り身を表す「1」という数字が4つ並ぶことが由来となっています。

当初は盛大に婚活パーティーなどを行う日として親しまれていましたが、
近年では「自分へのご褒美」として盛大に消費活動を行う日として知られています。

それに目を向けた企業やECサイトが、
こぞって大セールを行い始めたことで、
中国で1年に最も賑わう「一大商戦日」となっています。

某ウイルスの影響が続くここ2年では、
「お一人様需要」が高まり、
サプリメントや美容用品、ヨガ、ピラティス関連のグッズなどが
ECサイトの売上上位に食い込んでいるようです。

そんななか、世界中に広まる「SDGs」の波は、
この「独身の日」にも押し寄せており、

「エコ」や「チャリティー」への消費を促す流れも生まれているようで、
有名インフルエンサーが配信で莫大な金額を稼ぎ、寄付を行うなんてこともあるそうです。

僕たちが学校などにこぞってポッキーを持ち寄り、「シェアハピ」している日に、

お近くの中国では盛大な消費活動、大商戦が繰り広げられていると思うと面白いですね。

さて、中国だけではありません。

この11月11日。
遠くヨーロッパ、イギリスに目を向けると、
「リメンバランス・デー」
というものがあります。

海外サッカー好きの方ならご存知かもしれませんが、
毎年11月に入ると、イングランド・プレミアリーグの全チームのユニフォームのデザインが変わり、
試合前に黙祷が行われます。

選手のユニフォームの胸には赤いポピーの花の絵が刻まれ、
監督やスタッフの服にはポピーのピンバッジなどが着けられます。

これは、第一次世界大戦の終戦日に、
犠牲者と平和への祈りを捧げるというものです。

第一次世界大戦は、1914年の7月28日に始まり、
4年後の1918年11月11日に休戦協定が結ばれました。

そうです。
ポッキーの日は第一次世界大戦の終戦の日なのです。

日本人なら、第二次世界大戦の終戦記念日の8月15日はご存知でしょうが、こちらは知らない方が多いかもしれません。

第一次世界大戦は、世界史の中で見るととても重要な戦争で、
ヴェルサイユ条約からその後の国際秩序の形成、ナチスの台頭と考えていっても、
第一次と第二次では20年ほどのギャップがありますが、
2つは繋がっているのです。

第一次世界大戦がなぜ世界史上で大事な戦いかというと、
この戦争は戦争というものへの認識が大きく変わったターニングポイントだったからです。
この戦争までは、まだ「戦争」という行為が
「勇敢」というワードに強くリンクしていました。

20世紀初頭のこの時代には、まだ「戦争に行くと男が上がる」
「国のために戦う息子を誇りに思う」
というイメージが強く残っていたそうです。

しかし、それが科学技術の発展により、
大きく変わってしまった。

潜水艦や巨大戦艦、ダイナマイトなど武器の進化、毒ガスや細菌兵器などの出現により、
短い時間で大量の人を殺すことができるようになった最初の戦いが、
この第一次世界大戦なのです。

この無惨な戦争は、塹壕の登場やそれによる感染症の蔓延、武器の開発競争などにより長期化し、
7月に始まり当初は「クリスマスには帰れる」と言われていた戦争は4年をかけてようやく終焉を迎えることになるのです。

ここから「戦争」というものへの人々の認識が変わり
「戦争は避けるべきもの」
「悲惨なもの」という意識が強く人々に刻み込まれたと言っていいでしょう。

現代の私たちが持つ「戦争」のイメージは、
ここから始まったとも言えるでしょう。

イギリスでは、「Great War」という表現がありますが、
これは簡単に訳すと「大戦」ですが、
第二次ではなく第一次世界大戦を指します。

日本では犠牲者の数は圧倒的に第二次が多いことからも、意外に思われるかもしれません。

さて、前置きが長くなりましたが、
このリメンバランス・デーは、簡単に説明すると
「remember」
忘れない、思い出す日、ということです。

第一次世界大戦が終わった11月11日。
当日やその前の1週間ほどに渡って、
募金活動などが行われます。

学校やスーパー、レストラン、または訪問などで行うそうです。
そして、募金をした人はポピーのバッジが貰える。

日本で言うと、赤い羽根募金のイメージに近いでしょうか。

2016年には70億円を集めたそうです。

このリメンバランス・デー。
この時期にはポピーのバッジを付けた人を街中で見ることができ、

特に大衆の目に晒される仕事をしている人、
タレントや俳優、スポーツ選手や政治家などは
ほぼ着用していると言っていいでしょう。

そして、サッカーの試合前などには黙祷が行われ、犠牲者と平和へ祈りを捧げる。

集まった募金は退役軍人への支援や医療研究の資金などに充てられるそうです。

そして、なぜポピーなのかということに関しては、
第一次大戦後に有名になった1つの詩に由来しているそうです。

第一次大戦に従軍したカナダ人のジョン・マクレーという詩人がいました。

彼が「フランドルの野で」という詩で

戦争が終わって焼け野原になったフランドル(現在のオランダ、ベルギー、フランスにまたがる地域)地方で、
真っ赤なポピーだけが場違いなほどに綺麗に咲いていた風景を詠んだのです。

この詩は戦後有名になり、「ポピーの花」は一躍平和の象徴になりました。

こうして、現在の募金活動やポピーのバッジを着け黙祷をする風習に至っている訳ですが、

この「リメンバランス・デー」はどうも良いことばかりでは無いようです。

戦没者や平和のために祈る活動のどこに負の側面があるというのか。

それは「愛国主義の強要」に繋がっているという批判があることです。

毎年、テレビタレントやアナウンサー、スポーツ選手などで、
政治的スタンスなどしっかりとした理由を表明した上でポピーを着用することを拒否している人でも、
相当なバッシングが浴びせられると言います。

職場でもポピーを着けていない人は白い目で見られることもあるとか無いとか…

当初は第一次大戦のみに祈りを捧げる日であったリメンバランス・デーですが、
現在では第一次大戦以後にイギリス軍が関わった戦争全てに対して祈りが捧げられています。

こうなると、ポピーを着けるということ=第一次大戦後のイギリス軍の戦争関与の肯定、賛同
という考え方もできるということになります。

1972年に起きた、
アイルランドのデモ行進に対しイギリス軍が発砲し14人が死亡する
「血の日曜日事件」を理由に、
ポピーの着用を拒否したジェームズ・マクレーンというサッカー選手がいました。

祖国の人々が命を落としたのに、イギリスの戦没者に祈りは捧げられない、と。

彼はその理由を表明していたにも関わらず、Twitter上で殺害予告がされる、スタジアムでもブーイングを浴びるなどしました。

また、その出来事から6年後の2018年には、
NATOの空爆を受け故郷を破壊された経験を持つ
セルビア代表のネマニャ・マティッチも、
ポピーの着用を拒否しました。
もちろんこの空爆にはイギリス空軍も参加していました。

また、アフガン戦争やイラク戦争にもイギリスは軍を派遣していますが、
この2つの戦争はその後の通称「イスラム国」の暗躍につながった戦争と見る向きもありますので、
そうした理由でポピーの着用を拒否する人もいるようです。

また、プライベートのカメラが回っていないところでは着用しているが、
着用を強要する空気が嫌だという理由でカメラの前では着けないと表明しているタレントもいるようです。

平和を祈るはずの日、平和の象徴であるはずのポピーによって、
誹謗中傷や殺害予告まで起きてしまうって、一体なんのための日なんでしょうかね…。

着けてなければ非国民呼ばわりされるなんて、たまったもんじゃありませんよね。

このこととは関係ないかもしれませんが、某ウイルスにかかった人が、患者であるはずの人が、
叩かれてしまうという現象を思い出さざるを得ませんでした。

一つの思想、イデオロギー。考え方。主義。
なんと表現するのが正しいかはわかりませんが、これらは人々を一つにまとめる、という意味では強い力を発揮しますが、
人々を一つにするということがすなわち良いことであるとは言い切れないということがわかります。

ちなみに、このリメンバランス・デーはイギリスのみ行われているものではなく、
アメリカやカナダ、オーストラリア、ポーランドやその他ヨーロッパ諸国で、
場所によっては名前を変え行われています。

実は僕は、在大阪英国領事館でもリメンバランス・デーの募金を行っており、
ポピーが貰えると聞いたので、募金をしに行く予定でした。

しかし、改めてリメンバランス・デーのことを知ってから行こうと思い調べてみると、
先の情報に出会ったわけです。

単にプレミアリーグの選手や監督に憧れポピーをゲットしたかった僕は、
募金に行くことを辞めました。

以上、長くなりましたが、日本ではポッキーの日と言われる11月11日が、
お近くの中国では「独身の日」であり「ビッグセールの日」である。
そしてイギリスや欧米諸国では「リメンバランス・デー」、第一次世界大戦が終わった日である、というお話でした。

この日のことを紹介したかったので、火曜日の映画紹介は今週はお休みです。
明日は予定通り「今日のことば」をお送りします。

小野トロ







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