見出し画像

キッチンカーによる災害支援を可能にするために必要なこと。

Mellow代表の石澤です。

キッチンカーによる災害支援に注目が集まっています。

キッチンカーは、機動力・食材・調理人・調理設備を兼ね備えており、災害時に必要な要件を満たしています。
また、普段から食のプロフェッショナルとして大量調理に慣れており、炊き出しの際の提供力も有しています。

Mellowが運営するモビリティビジネス・プラットフォームSHOP STOPでは、提携するキッチンカーの方々と行う食事支援等のボランティアを目的とする「フードトラック駆けつけ隊」を組織しています。2023年3月現在、全国のキッチンカー320社が賛同してくれています。

今回のnoteでは、「フードトラック駆けつけ隊」についての発足のきっかけや、活動実績、キッチンカーによる災害支援を可能にするために必要だと考えていることについてお話ししたいと思います。

発足のきっかけは東日本大震災

「あたたかいご飯が食べたい」という想いと「食の力で困っている人のチカラになりたい」という想いをつなげたい。

僕が前職でキッチンカーのオーガイザーをしていた2011年3月、東日本大震災が起きました。その時はまさに平日のランチ営業直後。たまたまキッチンカー事業者さんに集合してもらうことになっており、多くの事業者さんが有楽町に集合している時でした。

状況がわからず、キッチンカーのみなさんと一緒に、近くにあった街頭テレビモニターで津波の様子を見て驚愕したことを今でも鮮明に覚えています。直ぐに事業者さんを解散させ各自帰路についていただきました。
その後、各キッチンカー営業現場の被災状況の確認や、事業者さんの安否確認、以後の出店可否、食材等の仕入れ状況などに追われました。特にガソリン不足が問題となり「どこどこのガソリンスタンドは販売している」などの情報の共有に努めていました。

少し落ち着いてきたころ、連日報道される被災地の痛ましいニュースを見たキッチンカー事業者さまから、「何かできることはないのか」、「キッチンカーのボランティアとして被災地に向かいたいがどうしたらいいか」、という相談をいただくようになりました。

しかし、こうした相談をどこに繋げばよいのか、現地行政なのか?国の機関なのか?など、当時様々な関係各所にキッチンカーのオーガナイザー事業を行う会社としてコンタクトを図りましたが、発災時の混乱の中、行政、関連支援団体等に急に提案しても信用し、受け入れていただくのは到底難しい話でした。当時はまだまだキッチンカーの認知も広がっていない頃でした。

こうして支援活動の確立ができないまま、結果、善意でのキッチンカー事業者さま個々の動きにお任せするしかなく、多くのキッチンカー事業者さんとのネットワークがあるにもかかわらず、支援活動につなげることが出来ない状態でした。

このとき僕は、こうしたモヤモヤを教訓に、災害支援に対する進むべき方向を明確にし、「キッチンカーによる支援ネットワークをつくりたい」と考えるようになりました。

こうして時間はかかりましたが、Mellowでは2019年9月に任意団体として「フードトラック駆けつけ隊」を発足。SHOP STOPの登録キッチンカーのみなさんに呼びかけたところ、3日で100社が賛同してくれました。

2019年発足当時の呼びかけへのキッチンカーの皆さんのコメントに胸が熱くなりました

「フードトラック駆けつけ隊」は、状況に応じて食のサポートを必要とする被災地へ、希望するキッチンカーを安心して円滑に送り出す仕組みを目指しています。
そしてこれは、平常時からの事業運営基盤があるからこそ実現が可能だと考えています。

2023年3月現在のキッチンカー営業場所と登録台数

はじめての支援活動。2019年9月台風15号による千葉県大規模停電

災害発生から支援に至るまで

2019年9月1日(日)に「フードトラック駆けつけ隊」が発足して1週間ほど経った9月9日(月)、台風15号によって千葉県を中心に甚大な被害をもたらしました。

9月11日(水)、当時、台風による千葉県大規模停電の情報がニュース等で多く報道される少し前のタイミングのことです。Mellowと以前から親交のあるさいたま市職員の方(非常勤特別職員/街づくりコンサル)から、「千葉の停電が思っているよりも酷く、被災状況がまだまだ続いている」と一報をいただきました。

まだまだ夏の暑さが残る時期です。停電地域は広範囲にわたり、クーラーや冷蔵庫も使えず、疲れが溜まっている状況のようでした。
9月12日(木)、午前8時に、このさいたま市職員の方に「千葉県内で支援を必要としていて、駆けつけ隊を受け入れていただける行政様はないか」と相談したところ、いくつかの市で需要がありそうだという回答をいただきました。
同日正午、フードトラック駆けつけ隊の連絡用チャットツールで支援活動の一斉募集をしたところ、たくさんのキッチンカー事業者さまが手を挙げてくださいました。

9月12日(木)12時頃〜15時頃、ランチタイムの営業中にキッチンカー事業者さまと現地受け入れ先との調整を行いました

しかし、炊き出しに駆けつけたはいいものの、住民の皆さんに情報が行き渡らず、誰も来なかったということを避けなければいけませんし、どれくらいの食数が妥当なのか、何台で出動すべきかなど、現地の受け入れの調整を確実にしなければなりません。

同日13時、さいたま市職員の方より知人を介して被災地職員の方と繋がることができ、情報・状況を相談しました。

こうして、同日15時には8店が千葉県の市原市に向かっていただくことを決定し、支援活動を実現するに至ったのです。
キッチンカー事業者の方々は、支援の募集をした時間、まさにオフィス街のランチ営業真っ只中。14時ごろまでの都内での営業をこなし、同日夕方には炊き出し現場の公民館に到着し、この日8店で約800食を提供しました。

支援初日となった2019年9月12日(木)。都内のランチ現場からキッチンカーが次々と到着し、食事の提供を行いました
それぞれが専門店のキッチンカーです。提供したメニューは、肉めしや牛すじカレー、オムライス、ミートソース・パスタ、からあげ丼、魚介のお弁当、お好み焼き、焼きそばと多岐に渡り、とても喜ばれました

その後、市原市、館山市、南房総市、山武市への支援を実施、8日間にわたりのべ32店が参加し、4000食を無償提供しました。

お弁当を受け取った方からは、
「冷蔵、冷凍が必要な食材が底を尽きていたため、手作りの温かい料理はひさしぶり」
「パンや備蓄品などを食べて凌いでいた。コンビニやスーパーでも、そういったすぐに食べられるものからなくなっていった。冷凍食品をフライパンであたためたり、カップラーメンを食べるのに遠いところにお湯をもらいにいったりしていて気が滅入っていた。本当にありがとう」
「断水の影響で飲料水として使えず、料理ができず満足な食事をしていなかったので本当にうれしかった」といった言葉が寄せられました。

毎日オフィス街のランチタイムに行列をさばいているキッチンカーの提供力によって、大きな混乱なく大勢の方にあたたかい出来立てのご飯を提供できました
「滋養のつくものを」とメニューにも工夫を凝らしてくれました
キッチンカー事業者さんはどこでも営業できるよう発電機を持っているため、停電のなかでもスムーズに食事を提供を行うことができました

山間部に住んでいるご年配の方が車を借りて公民館に来場された際には、ほとんど食材を入手できていなかった様子で、「こんなに遠くまで来てくれてありがとう」と、涙を浮かべて感謝されていました。

参加したキッチンカーの方々からは、
「2日間位食事をしてない方もいらっしゃいました。少しではありましたが提供できて良かったです」
「土日はイベント出店で、金曜日では仕込み数が足りず、木曜日だったから駆けつけることができた」
「たまたまランチ場所が仕込み場に近かった、明日のランチ現場も近い場所だったというタイミングが重なり来ることができた。2.3日分仕込んでいるので、ランチ現場から仕込み場に帰って急いでご飯を炊いてきた。店に出す分をもってきた。」
「ちょうど個人で支援物資を持っていこうと思っていた。ランチのあまりの生麺20食ほどと、仕込み場所から乾麺を100食ほど持ってきた。」
「こうしたことは無いに越したことはないですが、食事は人を元気にする源です。それを凄く感じました」といった声が寄せられました。

被災者の方に対しての生死に関わる食料の提供は出来ないにしても、キッチンカー事業者の皆さまは、あたたかい食を通じた癒しを提供することが出来ると改めて感じました。

迅速な支援活動が可能になった理由。よかったことと課題

こうして、キッチンカーのみなさんの「食の力で困っている人のチカラになりたい」というあたたかい想いと、意思決定スピードの速さ、支援決定から数時間後には現地に到着できる機動力を持って支援を実現することができました。
このときの経験から、スムーズな支援活動を可能にしたいくつかのポイントを挙げたいとおもいます。

1、実際の炊き出し場所(公民館など)の現地職員さまと繋がれたこと
このときは、何人かの市の職員さまを介し、どうにか現地の職員さまとつながることができました。このため、集合時に混乱することもなく、必要食数の把握や近隣住民への周知に繋げることができました。
市のtwitter、町の広報車、地域センターの掲示板やチラシ等を通じて周知を行いました。中には小学校のLINE連絡網で知ったという方もいらっしゃいました。

2、人が確実に集まる場所と時間を抑える
自衛隊の入浴支援や、強風のため修理が必要な屋根にかぶせるブルーシートの配布など、国や行政の支援活動、物資配布が行われる時間と場所に合わせて炊き出しを行うことができました。そのため、大きな需給のミスマッチを防ぐことができました。

3、いざという時に出動するための平常時からの仕組み化ができていた
フードトラック駆けつけ隊では、キッチンカー事業者さまと平常時の営業を行うためのさまざまな仕組み化が進んでいます。1店1店のメニューや事業情報、販売力の把握、連絡ツール(Slack)の使用などが整っていることから、大きな混乱もなく、適切な指示・調整を行うことができました。

同時に、課題も浮き彫りになりました。

  1. 被災地での食数等のニーズの把握

  2. 現地職員の方とスムーズに繋がるのは難しい

  3. 支援の情報が行き渡らない独居の方や、山間部にお住まいの方、小さなサイズのニーズがある場所にまで回れなかった

  4. キッチンカーには、活動場所管轄の保健所が発行した営業許可が必要で活動制限がある

  5. 利用される方との調整も必要
    例:1人で何食分もお持ち帰りになる方がおり、配布が行き渡らないこともあった。(その後1人一食/並び直しはOKなどのルールを導入)数量を把握し、並んでいる方に周知する必要がある

  6. 利用者の方にとっては、民間の支援活動と自治体からの支援かの棲み分けがわからない
    例:自治体からの支援だと勘違いした一部の利用者さまの中には、キッチンカー事業者の方に対してクレームをおっしゃる方もいた。

  7. 継続的な支援にするために、寄付金等の活動資金をキッチンカーの方々に還元する仕組みづくりが急務

そのほかにもまだまだありますが、どのようにしてスムーズな支援を実現することができるか、平常時からの仕組み化の必要性を強く感じました。

そのために、フードトラック駆けつけ隊は2021年7月に一般社団法人化しました。活動に参加するキッチンカー事業者の費用負担を軽減するための資金確保、行政関係者とのチャンネル形成や活動周知のための広報PRなど、平時から継続的に活動をサポートする仕組みづくりを行うためです。

継続的な支援のかたちに整えていきたいと考えています。

キッチンカーによる支援ネットワークをつくる上で大切なこと

僕がキッチンカーによる支援ネットワークを構築するうえで、一番重要だと感じていること、それは支援に「必ずはない」ということを理解すること、理解していただくことです。

災害は、どこで起きるかどの程度の規模になるのか、予想もつきません。
ですから、「『フードトラック駆けつけ隊』という仕組みがあるので、いざという時必ず駆けつけます!」とはお約束できません。首都圏で大きな災害が起きた場合は、自分達が本部として機能することも難しくなると想像しています。

「必ずはない」。
だからこそ、できる限りのネットワークを作っておく必要があります。
そして、もしもの時の出動を実現するには、平常時からの活動で日々緊密に連携していることが不可欠です。

SHOP STOPは現在、首都圏、東北エリア、北関東エリア、東海エリア、関西エリア、九州エリアで展開し、平常時から全国で861箇所でキッチンカーが毎日ランチやディナー営業をしています。

こうした日々の事業運営においては、本社機能がある首都圏、支社のある関西、九州、東海、そして、各エリアでSHOP STOPの管理運用を行ってくださっている地場企業のみなさんや、もしもの時に「フードトラック駆けつけ隊」として活動への賛同を表明してくれている全国320社のキッチンカー事業者のみなさんとのネットワーク、仕組みが既に確立しています。

このネットワークを、「もしもの時に、動ける人だけでも動いてくれるプラットフォーム」としてとりまとめ、日頃から災害支援に関するコミュニケーションをとっていく。それが「フードトラック駆けつけ隊」の第一歩でした。

そして、もう一つ強く思うのは、キッチンカーの方々に全部を犠牲にさせたくないということです。

彼らは「困っている人を助けたい」「食の力で笑顔にしたい」そんな想いを持って活動に賛同してくれています。
千葉県の停電の時もそうでした。この時の活動は、キッチンカーの方々に活動費用をご負担いただくものでしたが、なかには毎日のように活動に参加してくれる人もいました。1回のランチよりも多い200食という数を提供してくれる方もいました。

僕たちは普段からキッチンカー事業者さん一人ひとりのキャパシティや事情を把握しています。「支援したい」という想いをもって行動してくださることを尊重したいと思っていますが、支援を継続できるかたちにしていくのも、SHOP STOPの「最適配車」の一つだとも考えています。
その方のキャパシティや能力を超える支援は行ってはいけないし、身を削るようにして毎日支援に向かうというのは避けなくてはいけない。

だからこそ、「できる人ができるだけの支援活動を行う仕組み」であることが重要です。第一弾の活動では支援に行けなくても、第二弾で参加できる人もいるかもしれない。2日連続で行った人が、休めるかもしれない。そんな配車のコントロール可能にすることも、フードトラック駆けつけ隊の重要な役割だと考えています。

フードトラック駆けつけ隊、今後の展望

「困っている人を食の力で支援したい」というフードトラック駆けつけ隊の活動は、災害支援に止まらないと考えています。
実際に、2020年コロナウイルス感染拡大時には医療従事者支援、こども食堂の支援を行い、4ヶ月間で122店が13,000食を提供しました。

Mellowの株主であるトヨタファイナンシャルサービス様より協賛いただき、キッチンカーのみなさまに活動資金を補てんする形で実現しました

そして、今後は災害時以外にも、生活困難支援やフードロスといった日常的に存在する社会課題への取り組みも行っていきたいと考えています。具体的には、キッチンカーのランチタイムでのロス食材をこども食堂へ提供するスキームの実現や、キッチンカー事業者様と食材仕入れの連携を図ることを予定しています。また、首都直下型地震などの自然災害に備えて、スペースオーナー様や行政様と連携し、災害時マニュアルの作成・共有を進めていく予定です。

ボランティアでこども食堂を運営する方々を手伝うことは、大量調理ができる、料理ができる方たちのスキルを活用できる場なのではないかと考えています

また、平時からご利用いただいているSHOP STOPアプリでは、発災時には炊き出し情報や物資配布情報なども発信できるようにしたいと構想しています。

例えば豊洲エリアで炊き出し場所としてSHOP STOPが機能できた場合、このアプリ画面のようにどこで炊き出しが行われているか、アプリ上から情報を取得できるなどをイメージしています。

僕は東日本大震災のときに、「困っている人を助けたい」と思うキッチンカーの方がいるのならば、その想いと被災地であたたかい食事を食べたいという人々と繋げ、彼らを安心して支援場所へと送り出せる仕組みを、プラットフォームとして整えなければならないと考えました。
それは、「それぞれの豊かさを、それぞれの想いで」というMellowが掲げるパーパスのひとつでもあると思っています。

災害支援は想いだけで継続できるものではありません。さまざまな課題や超えるべき壁があります。その課題や壁をわかったうえで、できることから1つ1つやっていこうとしてる。それが「フードトラック駆けつけ隊」です。

今後もこのネットワークを広げていけるよう活動していきます。


▼キッチンカーが探せるSHOP STOPアプリ

リアルタイムで更新され、近くの営業場所が表示されます。防災機能を拡充することもイメージしています。

【ios】

【Android】

▼フードトラック駆けつけ隊関連ページ

▼フードトラック駆けつけ隊に関するプレスリリース


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?