マガジンのカバー画像

詩の採集

11
よいと思った詩・好きな詩などを勝手に採集していきます。作者の方でマガジン追加を希望されない方がいましたらご連絡ください
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

[詩] 声

[詩] 声

テレビを突然消したものだから茶の間は混乱した。今夜、皆で歌番組を見ていると、爺の左手が急に電源を切ったのだ。姉や母や婆が〈いいところなのに〉と口々に小声を尖らせる。何が我慢できなかったのか、爺はもう土間に降りようとしている。〈点けてもいい?〉と中学生の姉。もう少し待ちなさい、と父。〈戦争から戻ってかれこれ三十年にはなるのにねえ〉蜜柑を取ろうとしていつも通りに婆が尻をあげる。女の声高い歌謡曲がつっと

もっとみる

水膜から

最近ぼくは内側にいます。水膜に触れて、る、指先は僕の。ぼくもてをのばす。膜越しに手を合わせて、ね、だから、だからもう、さみしくないんだ。ぼくら。共鳴している。ひとつとひとつのゆびさき。故意に侵した蜃気楼の先へ。ゆける。ゆけるよ、ぼくらなら。ぼくたちなら。だからね、もう、だいじょうぶなんだ。
僕が寂しいときは、さみしくないよって、ぼくがいるからへいきだよって、いっしょにいるから。からだ、は、僕に預け

もっとみる
【詩】いつもの終点

【詩】いつもの終点

列車の窓硝子を雨粒が穿って
都市に衝き進む
溶かす摩擦熱のように
外界の冷感に
内在する熱
かつかつと
削れつつ崩れ行くグレーの
歪から
不特定多数の指向性が過密する
圧力の足し算引き算に相殺される
無へ
飛び込んだ終点まで
吐き出される原形質の
なれの果ての塊になっても
考えるまもなくひきちぎれて
細やかな熱の粒になって
遊離
削れつつ

もっとみる
【詩】永久凍土のクリスマス

【詩】永久凍土のクリスマス

12月の夜は部屋のあかりを消してヘッドホンをつける、そして壁にもたれかかる背中のあたたかさ、冷えたコーラを飲んで夢を見る、目をあけたままで眠る。

こんなふうに安らぐこと、こんなふうに息をすること、こんなふうに赦すこと、こんなふうに生きること、そして。

淡いグリーンの光を指先に感じる、まるで生まれる前の走馬灯、淡いパープルの光を唇にあてる、それは永久凍土の20世紀だね。

サンタクロースは麒麟や

もっとみる