粉ミルク

都内OL、文章を書きます。ビュン

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最近の記事

ハッカを噛む

アレイはぐっすり眠っている。重力のままに枕にうずまる小さな頭、気をつけないと見逃してしまう程度の胸の上下。苦悩のしわも悲痛の翳もない、まあたらしいリネンのような寝顔をながめているとなんだかいてもたってもいられなくなり、わたしはひかえめなその目元に唇を寄せて薄く口を開き、やわらかそうな目蓋をぱくりとはんだ。小学生の頃夢中で蜜を吸ったツツジの花の感触が、脈絡もなく唇によみがえった。 おそるおそるその綴じ目に舌を這わせると、長く密集した睫毛がゆらゆらとほぐれる。味なんてないはずなの

    • ペタグーグミにハマっています(近況)

      ここのところ新しい知識や教養を体内に取り込む時間がないので、自己の出涸らしを絞りに絞ってようやく手のひらに溜まった、透明でぬるぬるした叡智っぽく見えるものをほっぺや二の腕に塗りたくりながら過ごしていた。少しくらい質の良くない成分だとしても知性の保湿は季節を問わずいつでも重要で、これを欠かすと肌は荒れ、指先はささくれ、自己肯定感という名の免疫システムに異常をきたして自分の内面を自分の思考が攻撃しだすので保湿はほんと大事。あと朝晩の洗顔と、できれば週一回のピーリングも。 やっと

      • ミニコーラでもいい

        なまぬるい空調に抱かれる休日のオフィスからようやく脱出すると、17時でも夏の陽はまだまだ眩しくもえていて、家路につくのをなんだかためらわせてくれる。タンクトップの袖ぐりから呑気につきだす裸の肩をウエハースのように甘く香ばしい風がすべって、その気さくさに乗せられるように地下鉄のあなぐらへ潜った。 駄菓子屋の棚の前にいるような気持ちで、切符売り場の色あざやかな路線図を見上げる。選択肢は多ければ多いほどワクワクするが、目移りするのと同じくらい、わたしは決断という行為が好きなのかも

        • 4/28の思い出・備忘

          久しぶりに一人で出張に行ってきた。疫病が流行ってから一年、旅行どころか居酒屋で記憶を飛ばすこともできないので精神的にも物理的にも地に足のついた日々を粛々と送っているけれど、こればかりは現地訪問せざるを得ないという仕事が入ったので。練習を兼ねた備忘として残しておく。 朝4時半、アラーム音の出どころを、ベッドの中で目を瞑ったままもぞもぞとまさぐって探す。とんでもなく眠い、ていうかまだ起きていない。何回かのスヌーズの波を経てようやく重いまぶたを開けると、私の狭い部屋は既に朝を迎え

        ハッカを噛む

          こっ、これが大人のキス…(シンエヴァ雑感・備忘)

          三月が最後の意地を見せた冷たい雨の日、私は妹と劇場版シン・エヴァンゲリオンを観にTOHOシネマズ日本橋へ足を運んだ。 3日前にチケットを取ったときからずっと体調が変だった。仕事しててもご飯食べても呪術廻戦観ても、ずっと頭頂部あたりに春の大きな雲がわだかまっているようなそわそわする感じ。しっかり閉めているはずの意識の抽斗から何かがずっとはみ出ていて、しかも風かなにかでそよ…と揺れたりするから、どうしてもちらちらそっちに目をやってしまうような、気付けば「3時間 映画館 トイレ 

          こっ、これが大人のキス…(シンエヴァ雑感・備忘)

          とりとめ川

          年末実家に帰ったとき、夕方多摩川の河川敷で一人カップ酒を飲んだ。暗くなるにつれて頬が裂けそうな寒さが強まり、尻の下の枯草に湿りが出てくるのをパンツ越しに感じる。さみーばかさみー。京王線が轟音を立てて高架を辷り抜けた。そのひと時だけは思考が根こそぎ奪われ、通り去った後の濃く煮出された静寂は苦くておいしい。コンビニで温めてもらった酒がじんじんと主張しながら喉を通り、ついた息はすぐに揮発する。年の瀬のあの何とも言えない心許なさも相まって、絵に描いたような侘しさがそこにあるが、なにか

          とりとめ川

          5/29の思い出・備忘

          素晴らしい日をここに記しておく。思い出と比喩練習、日記。 朝起きたときから一味違っていた。とにかくここ数日悩まされていた起き抜けの頭痛が無かっただけで最高なのに、まだ眠気でさびつく身体をよじって窓の外を見ると、雲ひとつない快晴(が目の前のオフィスビルの窓に映っている)。枕元のエバーフレッシュもさわやかに濃い緑を揺らす。そしてなんと言っても今日は有給である。 最近「パジャマ」を着るようになった。今まではヒートテックにゆるゆるのジャージを着用し、起床在宅仕事食事お風呂入ってまた

          5/29の思い出・備忘

          緑ハイのゴブレット

          毎日外の天気すら分からないまま使い慣れない配布PCでこちこち仕事をし、適当に拵えた雑飯(ざつめし)を食べ、深夜2時に眠るという自粛スイッチが入って以来の生活が相変わらず焼き増されているけど、私の心は2日前から俄然異常な熱量を湛えている。僕のヒーローアカデミアをNetflixでぶっ通し38話(約13.3時間)、ドライアイの両目で飲み干したからである。 昔から「特性」とか「能力」に憧れていた。誰にも代替されない、自分だけにしか使えない力。努力以前の、絶対的で運命的なきまりごと。

          緑ハイのゴブレット

          陰謀論めっちゃいいすね

          春が喪に服している。あの我が強い桜でさえ、目立たないように咲き散ろうとしているなんて。私の感情は遅漏なので(情報を摂取する媒体を極端に絞っているというのもあるが)芸能人が死のうがアパホテルが軽症患者の受け入れを発表しようが「大変だな~」という甚だ小並な感想を抱いていたのですが、・・・この場合の「小並」というのは語彙力の欠乏というより、未だ大人の庇護下にある存在、世間の様々なことは大人が何とかしてくれるやろという他力本願の甘えた潜在意識の表れとしての小学生並み、である。あともし

          陰謀論めっちゃいいすね

          家賃で死ぬ

          飯倉片町の交差点はちょうど赤信号に変わり、運悪く立ち止まることになった。眼前に架かる首都高を見上げた視界の端、玉虫色の高層ビルが紺に澄む秋空をまっすぐに画しているのが見える。ROPPONGIの文字がなめらかに波打つ。 先程後にしたばかりの、5才児の掌よりも小さいチョコレートのパン1つが560円するブラッスリーからただよう甘くこうばしい匂いが、冷たい夜風に乗って追いかけてきては鼻先を通り過ぎた。右手に提げるビニール袋は軽い。突然の出費に気分は重い。 頭が悪いから貧乏になるので

          家賃で死ぬ

          ただの失恋

          仕事をしていても、昼食を食べていても、湯船に浸かっていても、あの日からずっと目が覚めていない気がする。味のないゼリー寄せの中に閉じ込められているような、肺の大きさが二周り小さくなってしまったような、ふわふわした息苦しさがずっとある。蝉の鳴き声が少し遠くなって、日差しの勢いが柔らかくなって、お手本のような夏の終わりの気配。腕時計の日焼け跡を無意識にこすっている。 彼氏と別れた。 「うーん、結婚はしなくてもいいかな。ずっと一緒に居られたら僕はそれで」土曜の昼、私の問いかけにそう

          ただの失恋

          ちょっとかぶれた

          下着を一新した。インスタでよく外人モデルがつけてる、カルバンクラインのブラとショーツ。つけたところでブロンドヘアになるわけでも、11字腹筋が浮かび上がるわけでもなく、鏡の中で156センチの日本人女がもちもちしてただけだったのですが。それでも今朝は気分よく冬の冷気に肌をさらせたし、ご機嫌で弁当をつめ、戸締りをして家を出られた。 自分を他人と比べない、という命題に何度もぶち当たっている。そりゃそうだ、赤が本当に赤いかどうかは、赤以外の色がこの世になければ分からないので。自分が唯

          ちょっとかぶれた

          古くなったりしないで

          右手中指のマニキュアが剥げていた。つやつやした濃いグレーの塗装は爪の半ばでぺりんと折れて、下にねむっていた桃色のすっぴんが半分ほど露わになっている。 その中途半端なエナメルと生爪のあいだに、まだ健在である左手人差し指の爪を差し込んで力を入れると、剥げかけのマニキュアはよく乾いたかさぶたのように、一気にぱかっとはがれてしまう。この一瞬を境に、そっと爪に落とした塗料も、ていねいにかけた時間も、世にもつまらないものになる。 よいしょ、と重い腰を上げてグレーのかさぶたをゴミ箱に捨て、

          古くなったりしないで

          金なさ過ぎて年始挨拶のとき取引先が持ってくる手土産のお菓子食いまくってギリ生きてる

          自殺をする人間は、一分一秒この瞬間に未来10年分の不安をぜんぶ背負ってしまうような人だという。へ~言い得て妙ですねと思う反面、逆に背負わない人間っているのか…?と考えながらエアロバイクを漕いでいる。 沖縄に行きたいならバスではなく飛行機に乗らないとダメなように、将来辿り着きたい場所への道筋は戦略的に組み立てなくてはいけない。チケットを買う動機に「不安」があってもいいじゃんね。夢だけ見て生きていくには、人間は脆すぎるので。隣で同じようにバイクを漕ぐ、ガリッガリのおばさんが2本目

          金なさ過ぎて年始挨拶のとき取引先が持ってくる手土産のお菓子食いまくってギリ生きてる

          イく年

          カレイド下北でパチンコを打った。釘調整がからすぎて全然ヘソに入らない(500円の貸玉で2回転くらい。リンツのチョコか?)ので、途中で北斗無双を捨てて、甘デジの偽物語に鞍替えした。年の瀬の割に、店内には十分すぎるほど副流煙が満ちている。歯ブラシギミックで緑保留。思わせぶりなつきひフェニックス、赤字幕のアニメーションはあっさり終わってしまう。 そういえばクリスマスイブにもここでパチ打った。18時半からのXmas寄席を観るまでの時間潰しに寄ったのだ。カナメストーン目当てでチケット

          人か怪物かわからん奴

          午後4時過ぎ、電車の中でnoteを書こうとしてスマホを持った両手を目の高さに挙げた。すると私の両側に座っている、だせえダウンを着たでかいおっさんらの腕とぶつかって、私にあてがわれたはずのなけなしの空間はぎゅうぎゅうになってしまう。どれだけ脇を締めて、横幅を減らそうとしても物理的に無理。肩身が狭いので書くのは諦める。冬の各駅停車7人掛けは粒ぎっしり、旬盛りに収穫したとうもろこしのよう。額の生え際に汗をかく。 内容に関わらず、クリスマスにまつわる思い出がある人間は幸せだと思う。

          人か怪物かわからん奴