安倍内閣「ROE革命」のその後
こんにちは、海原雄山です。
本日はやや経済よりの話題です。
当時の安倍内閣で2014年6月に閣議決定された新成長戦略は、我が国の株式市場にとって非常に重要な意味を持つと言われていました。
「『日本再興戦略』改訂2014」は、鍵となる施策として、日本の稼ぐ力を取り戻すこと挙げています。
その際に注目されたのが、「ROE」という指標です。
今日はその「ROE」とは何かということと、私なりに気づいた注意点等を皆さまにご紹介させていただきたいと思います。
そもそも「ROE」って何?
ROEの定義
「ROE」とは「Return On Equity」の略で、日本語では、「株主資本利益率」と呼ばれるものです。
株主資本とは平たく言うと、株主から出資されたお金と今までの利益の蓄積と言えば良いかもしれませんが、大雑把に理解するならば純資産で覚えてもらっても構いません。(厳密には株主資本と純資産は別ですが、説明をわかりやすくするため純資産でもOK)
では、このROEはいったい何を表すものかと言うと、「株主から集めたお金でいかに効率よく稼げたかを示す指標」なのですが、ROE=純利益/純資産で求められます。
当然このROEが高ければ高いほど、効率よく株主から集めたお金を使って稼ぐことができていると評価できるわけですし、逆に低ければ非効率と言えるというわけです。
ROE経営の意義
日本企業はこれまでこのROEの数字が低い、つまり株主から集めたお金を効率よく使えていないと言われており、そこを改善しようと動いたのが安倍政権でした。
2015年ごろからROEを一つの指標とし向上させる経営目標を掲げる企業が増え、経済産業省による「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~ 」プロ ジェクトより最終報告書(通称「伊藤レポート」)に示された8%を超えるよう、各種の企業努力が図られました。
こうした資本効率化の流れは、確かに海外から日本企業への投資に寄与したものと考えられますが、ROEというものがすべて万能なのでしょうか。
ROEの意外な落とし穴
ROEのデュポン分析
先ほど「ROE=純利益/純資産」とお伝えしましたが、計算式で表すと、こういう風にも表現できます。
「ROE=(売上高当期純利益率)×(総資本回転率)×(財務レバレッジ)」
売上高純利益率(純利益/売上高)は、売上高に対してどれだけ稼いだかを表す指標。
総資産回転率(売上高/総資産)は、総資産をどれだけ効率よく使って売り上げにつなげられたか。(高ければ高いほど効率が良く売り上げている)
財務レバレッジ(総資産/純資産)は、純資産をどれだけ膨らませたか、つまり、平たく言うと借金で純資産の何倍にまで総資産を膨らませたかを表しています。
なんでこの3つをかけ合わせたらROEになるの?と疑問に思われる方も多いかと思われますが、今はそのまま理解してください。
もし、気になるのであれば、こちらのリンク先をご参照ください。
デュポンシステムのわかりやすい解説、ROEを分解して投資や経営に活かす | 1億人の投資術 (oneinvest.jp)
要は、ROEは(売上高当期純利益率)×(総資本回転率)×(財務レバレッジ)の掛け算で成り立つとも表現できるわけです。
ROEの向上はすべて好ましいわけではない
ROEを向上させようと思えば、これらの3つの指標が変化すればいいわけです。
だとすると、売上高に対して利益率が上がるのは、それだけ付加価値を上げているということなので、それは望ましいことであると思います。
また、総資産に比して売上高が上がれば、これもまた効率よく資産を使えていることにつながります。
しかし、単に財務レバレッジを上げるのはどうでしょうか。
財務レバレッジを上げようと思えば、資本構成を変えればいいわけです。
例えば、総資産100億、純資産50億、負債50億として、純利益が2億とすればどうでしょうか。
財務レバレッジは、100億/50億=200%です
ROEは2億/50億で4%にとどまります。
しかし、資本構成を変えて、例えば純資産のうち30億は配当や自社株買い等で株主に返し、その減った分を借入金で賄ったとします。
すると、総資産は100億のまま、純資産20億、負債80億となります。
持っている総資産額はそのままに資本の構成が変わります。
するとROEは2億/20億で10%になるのです。
稼ぎが増えたわけでもないのに、ROEは見かけ上向上させることもできるのです。
そして後に残るのが、膨れ上がった負債と言うことになります。
実際はここまで極端なことにはなりませんし、そもそも、資本構成を変えることは必ずしも悪いことではありません。
低金利下の日本では、銀行等からの借金の方が株で調達する資金に比べ調達コストは低いため、むしろ都合が良い場合もあります。
業種によっては、安定してキャッシュが入ってくるので、むしろ総資産に占める借金の割合を増やした方が良いパターンもありますし、そこは結局経営裁量の話かもしれません。
携帯電話事業を営むKDDIとソフトバンク(持ち株会社じゃないほう)は、煮たような事業構成ですが、ROEを比べると雲泥の差があり、後者がかなり財務レバレッジを利かせていますが、携帯電話等の通信事業は、安定して毎月キャッシュが入ってくることを考えれば、それもまた合理的な選択の一つと言えなくもないと考えられます。
ただ、借金が増えるということは、それだけ破綻リスクも大きくなるということであり、返済が滞れば会社がつぶれることを意味します。
利益は変わらないのに、破綻リスクだけ増えれば、それは真に企業のガバナンスとしてあるべき姿なのかは疑問の残るところです。
したがって、ROEの向上をただやみくもに追い求めてもいけなくて、それは何によってもたらされているものか、つまり「ROEの質」も合わせて見ていかなくてはいけないということです。
そのためにも個別の企業を分析する際には、先述のデュポン分析で年度ごとの変化を確認することが重要です。
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