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〈偏読書評 番外篇〉「『翻訳者で選ぶ』新しい読書体験」補足版(非英語圏篇) *01/02追記あり

2019年10月末に発売された雑誌『Numero TOKYO』2019年12月号(扶桑社)の巻頭特集「いいね! がつなぐ未来」「あの人がナビゲートする、知る喜び」にて書かせていただいた「『翻訳者で選ぶ』新しい読書体験」の記事が先週からウェブでもお読みいただけるようになりました。

とはいえ原稿を書いていたのが9月だったので、この3ヶ月で各翻訳者さんが手がけた新刊が発売されたり、今後の刊行予定の情報が公開されたりもしているので、情報としてはちょっと古く感じられるかもしれません……というわけで補足版です。先にアップしていた英語圏篇は以下から。英語圏篇では岸本佐知子さん、松田青子さん、藤井光さんについて書いています。

ちょっと(かなり?)間があいてしまいましたが、非英語圏の(個人的)“推し”編集者としてご紹介していたのが以下の4方になります。

齋藤真理子さん(韓国語)

まずは現代韓国文学の読者層をこの数年で一気に広げた立役者といえる斎藤真理子さん。もはや彼女の代名詞ともいえるのが『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)。

ちなみに筑摩書房のTwitterによると、12月中旬の時点で14刷(!)、累計発行部数15万6000部(!!)となっているのだそう。11月末に下北沢B&Bにて開催された、名久井直子さん・川名潤さん・水戸部功さん・長田年伸さんによるトークイベント『本と紙と印刷と 装丁をつないでいく』でも『82年生まれ、キム・ジヨン』の話が出たのですが、製作時は編集者さんもここまでの大ヒットとなるとは全く思っておらず「そこまで売れないとは思うのですが、すごく良い作品なのです」と、名久井直子さんに装丁を依頼されたのだそう。

『82年生まれ、キム・ジヨン』より前に刊行されていた斎藤さんによる翻訳書も多々ありますが、2015年の第一回日本翻訳大賞で大賞を受賞した、パク・ミンギュさんの『カステラ』(図書出版クレイン)は読んだことがある(もしくはタイトルを耳にしたことがある)人は多いかと。

あと記事中にも書きましたが、斎藤さんが責任編集をつとめ、「韓国・フェミニズム・日本」を特集した文芸誌『文藝』2019年秋季号(河出書房新社)は発売わずか5日で重版が決定したことでも話題に。また記事を書いた後、特集の内容を新たにした“完全版”となる単行本まで刊行されるという、これまた異例の事態に発展しました。

(*2020年1月2日追記:『文藝』編集部のTwitterによると、今春に『小説版 韓国・フェミニズム・日本(仮)』も刊行されるそうです! こちらも楽しみ!)

また12月21日に開催された『第58回豊崎由美アワー読んでいいとも!ガイブンの輪(年末特別企画)「オレたち外文リーガーの自信の一球と来年の隠し球」』では、河出書房新社の担当者さんが“来年の隠し球”として、斎藤さんが翻訳を手がける以下の2作品をあげられていました(以下、“隠し球”リストからの抜粋)。エッセイ集『悲しくてかっこいい人』(リトルモア)が話題となったイ・ランさんによる初小説集、これは気になる&またもや話題となりそう……!

チョン・イヒョン『優しい暴力の時代(仮)』(河出書房新社)
優しい暴力が、世界に満ちる-.ハン・ガン世代の無類のストーリテラーによる、無名の人々の静かな心を丁寧に描いた珠玉の短編集。
イ・ラン『手違いゾンビ(仮)』(河出書房新社)
ミュージシャン、エッセイスト、コミック作家などマルチに活躍する韓国の天才、イ・ランによる12の物語。新時代の自由を生きるための、初の小説集!

稲村文吾さん(中国語 / 華文圏)

続いては中国語 /  華文圏の“推し”として、稲村文吾さん。稲村さんについては記事の中でも書きましたが、華文ミステリが日本に広く知られるきっかけをつくった功労者ともいえる存在です。

記事中でタイトルをあげたのは以下の3作品となりますが(個人的には『13・67』(文藝春秋)陳浩基さんによる自選短篇集『ディオゲネス変奏曲』(早川書房)がイチオシ!)……

百合ジャンルの作品が好きな方であれば陸秋槎さん『元年春之祭』(早川書房)も、ぜひ併読することをオススメしたいです。

また、もし「まだ出版社から刊行されていない、レアな華文ミステリを読みたい……!」という方がいましたら、ぜひ稲村さんが編訳された電子書籍『現代華文推理系列』も読んでみると良いかと。

小野正嗣さん(フランス語ほか)

掲載誌である『Numero TOKYO』ですが、本家『Numero』はフランスの雑誌。ということもあり「フランス語圏の翻訳者さんも……」と担当さんからリクエストをいただき、悩んだ末にピックアップさせていただいたのが芥川賞作家でもありフランス文学研究者の小野正嗣さんです。ちなみに記事内で代表作としてご紹介したのが以下の3作品。『ファミリー・ライフ』の原作は英語ですが、記事にも書いたように“越境”をテーマとした作品で揃えました。

ちなみに小野さんですが、カズオ・イシグロさん『浮世の画家』(早川書房)の翻訳も手がけられているので「いきなりフランス文学に手を出すのは、ちょっとハードルが高いかも……」という方は、まずこちらからチャレンジしてみるのもアリかと。

ちなみに小野さんの小説作品ですが、最新作としては毎日新聞での連載『踏み跡にたたずんで』の単行本が2020年2月1日に刊行されます。「まずは小野さんが書かれる文章との相性を確かめてみたい」という方は、こちらをぜひ。


飯田亮介さん(イタリア語)

非英語圏の“推し”翻訳者の4人目となるのが、イタリア・マルケ州の小村に暮らしながら翻訳をされている飯田亮介さんです。記事の中でご紹介したのは以下の3作品。

ちなみに『リラとわたし』からスタートした《ナポリの物語》シリーズですが、最終巻となる『失われた女の子』が刊行されたばかり。原作は全世界でシリーズ累計1000万部を突破しているヒット作品で、主人公となるふたりの女性(リラとエレナ)の波乱万丈な人生が、1950年代から2000年代にわたって描かれます。ふたりの物語は言うまでもなく、時代と共に移り変わるナポリの生活文化についても知ることができるので、イタリア文化史に興味がある方にもオススメしたかったりもします。

ちなみに著者のエレナ・フェッランテ氏、実はかなり謎めいた作家であって……どう“謎めいて”いるかは『リラとわたし』の訳者あとがきの中で触れられているので、気になった方はチェックしてみて(&シリーズを読み始めてみて)ください。

それと飯田さんが翻訳者として参加されているのが、国書刊行会から11月に刊行された、こちらの21世紀イタリア短編アンソロジー『どこか、安心できる場所で』。ちなみに序文を書かれているのは、前述した小野正嗣さん

食文化に比べるとイタリア文学はどうも馴染みが薄く、いったいどこから手をつけるべきか(どの作家の、どの作品から読むべきか)迷っている方も多いと思うので、まずは飯田さんをナビゲーターに立てて、気になった作品から手にとってみると良いかもしれません。

長々となってしまいましたが、「『翻訳者で選ぶ』新しい読書体験」補足版は以上でおしまいです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

英語圏篇でも書きましたが、一冊の翻訳書によって自分の生活は変わり、ちょっとオーバーかもしれませんが“世界”(少なくとも読書における“世界”)の見え方が一変しました。こういった体験をするほうが絶対に良いとはいいませんが、人生に(あるいは読書に)おけるスパイスは、ないよりもあったほうが、ちょっと楽しいような気もします。何はともあれ、2020年も素敵な作品との出会いがたくさんありますように。