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揺るぎなきアカウント【1ー4】

ゲームの天才。神崎がQゲームに出る。
まさに眞山が今日神崎と話したかったことだった。
先週行われた第三回Qゲームをテレビで見ていて、神崎なら優勝出来るのではと考えた。巷では立川という生意気そうな男が、国内ゲーム最強を謳っているが、そのゲームプレイを見て、神崎のほうが上ではないかと感じた。
神崎が立川を打ち負かし、世界にはとんでもない隠れたゲーマーがいることを示したいと、勝手に妄想していた。

「実はな、俺も神崎がQゲームに出ればいいんじゃないかと思ってさ、それを今日話そうとしたんだよ」
「そうなの?でも俺の話したかったことはそれだけじゃないんだ」
「え?何?」期待が膨らむ。
「Qゲームの賞金1000万があるだろ?それを軍資金にして、ゲームの会社をつくる」
「会社・・・・・おお!本当か!」
眞山の脳にいろんな考えが駆け巡った。以前から神崎の作ったゲームが世に出ればと常々考えていた。
それを神崎自身の口から宣言してきた。神崎にとってQゲームで優勝することは単なる通過点でしかない。
神崎が優勝して、会社を立ち上げるまでの妄想が容易にできた。

「やったほうがいいよ!うん!絶対!神崎なら絶対優勝できる!会社もつくれる!・・・でも、なんでそれを俺に話そうと思ったの?」
「う~ん、何となく。誰かに言って、自分が引っ込みつかないようにしようと思ってさ」
「なるほどね」
眞山はどんな理由であれ、神崎が自分に話してくれたことが嬉しかった。神崎が世に出る姿を間近で見たくなった。

「そういえば、神崎はこないだのQゲーム見た?」
「見てない」
「え?見てないの!?」
Qゲームを見てもいないのに出場すると言っている神崎に驚いた。
「スマホの速報で知っただけ。前回とかも見てない」
「Qゲームがどんなのか、内容は知ってるの?」
「早くクリアすればいいんでしょ?」
「ま、まあ、そうなんだけど。こないだはジェネラルソードで、優勝した奴は5時間そこそこでクリアしてたぞ」
「それもスマホで見た。俺ならもうちょい早くクリアできるかな」
「・・・マジか・・・」
「その優勝した人も、もうちょい早くクリア出来るたみたいなこと言ってたみたいだし、ジェネソーはあと30分は早くクリア出来る。それが俺の知ってる限界。ジェネソーは少しやり込んだからね」

サラッと当たり前のように言ってるが、かなり凄いことを神崎は口にしている。少しやり込んだくらいで出せるタイムではない。

「じゃあさ、今度のソウレット3は?」
「あれは面白いよ・・・3は特に・・・いろいろとね。ソフトも持ってる。ソウレット3が発売されたのって俺達が生まれる前だろ?まだスマホだって存在していないほど昔にこのシステムを作ったんだから。これを作った・・・なんて名前だったかな・・・まあ天才だね。このゲームがなかったら現代のゲーム全てが違った物になってたかもしれない」
眞山はQゲームの司会である轟が、ソウレット3が現代ゲームのパイオニア的なことを言ってたのを思い出した。
しかし神崎が断言するほどのゲームの天才とはどんな人物なのか。神崎と似て、夢の中でもゲームをしているような変わり者を想像した。
「予選が8月だから、それまでに調整して出場する。上手くいけば、優勝して来年専門学校卒業後に会社設立だ」
「自信はあるのか?全国から1000万目指して凄い奴等が集まってくるぞ。それにあの立川って奴。あいつも出るだろうし・・・」
「その立川って人以上の人が出てこなければ勝てるんじゃないかな」
「立川以上?」
「まあ、そんな気がする」
そう言って神崎は、ゲームソフトがずらりと並べてある棚の方に行き、そこまで探す感じもなく、2本のソフトを取り出した。

「これがソウレット3。こっちが初回版で、こっちが増版。懐かしいなぁ、ちょっとやってみるか」
「その初回とかって何?見た目は同じだけど」
「この初回のほうはソウレット3が初めに刷られて発売されたソフト。ここの・・・型番が少し違う。当時このソウレットを作った会社『フレド』は、そこまで売れるとは思ってなくて、5万本しか出さなかった。でも発売後に急激に人気が出て、最終的には200万本売れたんだ」
「何か聞いたことある。ソウレットの1と2も人気なかったみたいだし」
「ああ。それで、この初回のほうにはちょとしたバグがあって、それを修正して増版したんだ。もちろん、Qゲームでは修正された増版のほうが使われるだろう」
「へ~」
神崎は初回版の方を棚に戻して、増版のほうを手に取りブラブラさせた。
「今からやってみるけど、見る?」
「見る見る!こりゃビール足らないなぁ。長くなるよな。晩御飯とビール買ってくるから、それまで待ってて!」
「飲めないくせに、おじさん臭いこと言って、どうせノンアルだろ?」
「Qゲームの前哨戦みたいなもんだから、それを見ながらポテチとビールは最高じゃねぇか」
「風呂上がりのナイターを楽しみにしてる親父かよ」
眞山は笑いながら、再度近くのコンビニに買い出しに向かった。


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