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なくなるものへのレクイエム #2『行きつけの本屋』

シリーズ化を企んで1本書いてみたものの、その後なかなかネタがなく寝かせっきりになっていた『なくなるものへのレクイエム』。久しぶりに題材が見つかったので、ボチボチ書いてみようと思う。


いつも私がたむろする街・天王寺~あべの界隈。実は、大型本屋の密集地帯なのだ。ざっと数えてみると、喜久屋書店、紀伊国屋書店、丸善ジュンク堂、くまざわ書店×2、それにBOOKOFF。どこも馬鹿でかいし、品ぞろえもいい。だから暇つぶしには持ってこいな街なのだ。私のような本の虫、文字の虫にとっては天国みたいな街である。

しかし、私が一番好きだった本屋は
残念なことにもうなくなってしまった。

近鉄阿部野橋駅の真南、「あべのhoop」の中にあった「リーディングスタイルあべの」。ここは、カフェと本屋が融合した今どきのおしゃれなお店で、おまけに、他の書店よりもちょっと凝った品ぞろえで、いろいろな発見があった書店だった。とても好きだった。

大学時代、遊びに行く時も買い物に行く時もかならずここには立ち寄っていて、ちょっとの時間でも何か新しい本が並んでいないかとか面白そうな本がないかなとまるで宝さがしのようにうろうろ回っていた。時にはパソコンを持ち込んで、小説やnoteの記事を書いたりもした。いつ何時行っても混雑していて注文の仕方も好きなメニューもあまりよく分からないスターバックスよりかは、何倍も居心地がよかった。おまけに色々な本がすぐそばにあるからアイデアの種はたくさんあるし。

考えてみると、自分が何かいいアイデアを思いつくときは、「移動中」か「本屋に居る時」のどちらかがほとんどだなと思う。移動中の電車やバスの心地よさ、景色のよさがいい刺激をくれるのと同様に、様々な本のタイトル、表紙の絵や写真、帯のコメントなど、とにかくたくさんの言葉に呑まれるようにして没頭していると、自然といいヒントを貰えるのだ。


そんな場所がなくなると聞いたとき。やっぱり心から悲しかったが、その悲しさをどこにもぶつけることができないというのにも、虚しさを感じた。お店が無くなる時、お客には相談などするわけない。ただ、「閉店します」という冷たい張り紙一枚で私たちは納得せざるを得なくなる。当然っちゃ当然なんだが、なんだかなぁと思ってしまう。

「また出店してもしい」と会社に言う訳にもいかず、せめてなにか最後に買い物をしようと、私はあべのへお別れを言いに行った。その時買った文庫本と、かけてもらったオリジナルのブックカバーの肌触りを、私は今でも鮮烈に覚えている。あの温もりのある木棚と柔らかい暖色の証明で包まれた秘密の宝箱。もう一回ひっくり返したいなと願っても、それはもうできない。

断捨離をして、電子書籍を導入して、実物の本を買うことはすっかり減ってしまった。私のようにモノとしての本を買わない人が増えたから本屋も書籍業界も衰退しているのかなぁと、ちょっと申し訳ない気持ちになった。

本屋さんを、どうにかして応援したい。
大事なアイデアの発想元を
これ以上失わないためにもね。



おしまい。



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