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なくなるものへのレクイエム #1 -天神イムズ-

クリスタルキングの名曲「大都会」は、東京のことではなく福岡のことを指して歌われた曲である、というのは音楽好きの方ならご存じの逸話だろう。九州に生まれた人間なら、きっと一度は福岡に憧れを抱くと思う。そして、初めて福岡に足を運んだ時、その洗練された街に魅了されるはずだ。


先日、就職活動で福岡に足を運んだ。

わりと面接が早く終わり時間が空いた。久しぶりに「イムズ」に行きたいと思い立ち帰りの新幹線までの合間に、天神へ向かった。

「イムズ」とは「Inter Media Station」を略して、「IMS」=イムズと呼ぶ。商業施設やアートギャラリー、イベントホール、オフィスが融合した複合施設である。長年天神地区のランドマークとして他の商業施設と共存しながら営業を続けてきたが、このイムズ、今年の8月で営業を終了し再開発されることが決まっている。規制緩和に伴う大規模な再開発プロジェクト「天神ビッグバン」の一環で、ビルの建て替えがされるのだ。


このイムズ、ものすごく豪華なつくりをしている。

地下2階から地上8階までぶち抜く巨大な吹き抜け。そして、その吹き抜けに突き刺さるガラス張りのチューブエレベーター。

まさに見出しの写真のような光景が広がっているのだが、実際に見ていただくととんでもなく迫力がある空間だ。大人になって見てみると、どことなくバブルの頃の豪華さ至上主義、豪華こそ正義!というようなデザインの影響をここから感じとれる。

これを下から見るぶんにはいいのだが、上の階に行ってみると、ものっそ怖い。手すりの部分も総ガラス張りなもので足がすくむ。わりと高所恐怖症なたちなので、「ここから落ちたら地下二階に叩きつけられるぜ・・・」と妄想して足が震える。

幼心に怖いなーと思うし、今でもちょっと怖い。


子供の頃、母親といっしょによく天神に遊びに行っていた。地元から高速バス一本で天神に乗り込んでいくワクワク感。高いビル、地下街、沢山の車、バス、人。そのすべてがきらびやかに見えた。天神というか福岡は、九州の片田舎に住んでいるだけじゃ得ることができない、知らないことや見たことないものでいっぱいだった。街が全部まるごとおもちゃ箱のようだとも思った。

そして同じように初めて一人で天神に行ったときも、ものすごく心が躍った。憧れていた大都会を、自分で一人で歩いていることの違和感と高揚感。浮足だった自分を抑えるのが大変だった。

そして、そのさらに上の大都会・大阪で一人ぼっちで暮らしてみて、洗練された港町神戸を沢山歩いて、千年の都・京都に沢山仕事で通った。都会の利便性を享受してきた自分。

しかし、それでも想いを、憧れを寄せるのは。

いつも幼い目で見つめてきた福岡の街なのだ。


新幹線が博多に滑り込むとき、高速バスが天神に吸い込まれるとき、夜行バスが朝の都市高を駆けるとき、僕はいつも幼い自分を思い出す。そして、天神の高さの揃ったビル群を見て、自分のこれまでの人生に思いを馳せる。

それは、天神の街並みがどれだけ変わっても、住む場所が変わっても、いくつになっても、きっと同じだと思う。


こんな街のように、自分もまた変わっていけるだろうか。

変わる勇気は、まだあるだろうか。




おしまい。



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