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短編小説、物語いろいろ

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「巴の龍(ともえのりゅう)」「love's nigt」「ある独白(我が永遠の鉄腕アトムに捧ぐ)」「カオル」「甲斐くんの憂鬱」続々増えるよ
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巴の龍 #1(地図付き)

そぼ降る雨が少女の体を容赦なく濡らしていた。 北燕山(ほくえんさん)の奥深く、 人も通わぬ 獣道で、少女は泥にまみれ 着物をひきずるようにして歩いていた。 杉木立が生い茂り、遠く近く 獣の鳴く声が響いてくる。 少女は足を止めず、ひたすら歩く。 よく見ると着物は ところどころ破け 長い髪も雨に濡れて 顔にべたりとはりつき そして その顔を見た者は  誰もが生気のなさに驚くだろう。 雷鳴がとどろいても 少女は足を止めない。 少女の視線が稲光をとらえた。 「

カオル #7

「晃二のおねえさん?わ~!きれいな人!」 柚季は はしゃぐように言うと 急にあらたまって 「晃二と同じクラスの宮野柚季(みやの ゆき)です。 今日は晃二にお誘い受けちゃって、来ちゃいました。」 と照れくさそうに言った。 お誘い受けたってなんだよ。 誘った覚えないぞ。 それに 呼び捨てかよ。 いつ そうゆう仲になったよ。 しかもカオル、なんで今 出てくるわけ、 女装のままで・・・。 晃二が頭をおさえながら首を振っていると いつのまにかカオルが柚季を家に招

カオル #11

入学式・・・なんのことだろう。 「たまたま となりになってさ、 ちょっと 話したじゃない。」 「となり、金髪の子じゃなかったぞ。」 うん、と柚季がうなずいた。 あれ・・・もしかして、染める前なのか。 「その時、晃二となんとなく話がはずんでさ、 晃二『今度遊びに来れば?』って言ったじゃない。」 そういえば、そんなことあったかも・・・。 「それから自己紹介の時、中学が一緒の子が少ないから 早く名前で呼び合える友達がほしいって、言ってたよね。」 たぶん・・・言

カオル #13

あれから ひと月あまり。 「き・・・金髪ちゃん、学校はどうしたの?」 カオルが泡食いながら言うと 「いつものさぼりで~~す。」 と 柚季がおどけた。 そしてカオルの腕を組むと 「やったー!運命の女神がほほえんでくれたぁ~!」 と カオルに向かってニッコリ笑った。 「今日ね、なんとなく学校行きたくなくってさ、 あんまりこのへんで買い物しないんだけど なんか来てみたくなっちゃって。 もう、最高!」 カオルは柚季と顔を合わせないように斜めをむきながら、 ど

カオル #14

カオルは ぼんやりと柚季の様子を見ていた。 行きがかりとはいえ、約束は約束だ。 そう思ってここまで来たけれど、 約束を果たす自信がない。 かと言って いまさら逃げ出すわけにもいくまい。 「あのさ、本当に俺でいいの?後悔しない?」 カオルが確かめるように言うと、柚季は洗面所の方から 「なあに」と顔を出した。 カオルはもう一度 同じことを聞いた。 「だからね、金髪ちゃんは、本当に俺でいいの?」 ひとしきり部屋をながめていた柚季は、 もどりしなに うなずきなが

カオル #15

「なんだよ、お兄さんて。」 「晃二が言ってたの。 カオルさんは親戚だから、お兄さんみたいなものだって。 だからカオルさん、私みたいな不良娘と、 晃二がどんな付き合いしてるのか 気になるんでしょう?」 お兄さん・・・か。 あぁ、というようにカオルは うなずいた。 柚季は口をとがらせて、プイと横を向いた。 「なあんだ、やっぱりそうか。 私と晃二のこと、ちょっぴり ヤキモチ焼いてくれたら・・・ なんて 期待しちゃった。」 柚季は カオルに向き直った。 「大丈

カオル #16

「カオルさん。」 柚季に声をかけられて我に帰った。 「カオルさん、もしかしてホテルに来たの 初めてじゃないよね?」 「な・・・何行ってるんだ。んなわけないだろう。」 「だよね、そんなわけないよね。 まさかカオルさんが、そんなこと、 あるわけないよね。あ~よかった!」 柚季に言われて、カオルは咳払いした。 「馬鹿なこと言うなよ。 そ・・・それより、その・・・。」 カオル焦りながら、最初の質問を思い出した。 「何度も言うようだけど、大切なことだから。 そ

カオル #17

柚季はシャワー室をでて、 カオルの待つベッドへと向かった。 期待で気持は昂揚し、胸がはちきれそうだった。 部屋には誰もいなかった。 ベッドに座っていたはずのカオルは消えていた。 柚季は最初 何が起こったのかわからず 立ちすくんでいたが、やがて事態を理解すると その場に座り込んだ。 ショックで涙が頬をつたった。 カオルは柚季を傷つけることより ひきょう者になることを選んだのだ。 柚季はそれから十日間 学校を休んだ。 やっと 出てきた日も、晃二をまともに見

カオル #18

「カオル、ホテルから逃げたんだって?」 いつものようにノックもせずに部屋に入ってきたカオルに 晃二は開口一番 こう言った。 「柚季のやつ、あの時 十日くらい学校休んだんだ。 それから たまに学校来ても、無視されっぱなしでさ。 やっと今日、学校さぼろうとしてる時、 校門でつかまえて、無理やり聞いた。」 晃二は机に向い、カオルに対して後ろ向きのまま 話を続けた。 「なんで約束やぶったんだよ。柚季、本気だったんだぞ。 カオルとのことがあったから、もう俺とも話した

カオル #19

「はじめから この約束はフェイクだった。 金髪ちゃんを抱く気なんて まるきりなかったんだ。」 「だったら どうして?」 「あの時、言っただろう。 晃二、困ってるみたいだから 金髪ちゃんが この家に近づかないように、約束したって。」 「俺のせいなのか? 俺のせいだって言うのか、カオル。」 カオルが頭を抱えながら、声を震わせて言った。 「最初からわかってたんだ。 あの日、金髪ちゃんと晃二を見た時から、 必ず二人が付き合うようになるって・・・!」 「カオル、

カオル #20

カオルとユキは、小さなホテルに入った。 高校を卒業したとはいえ、 後ろめたさがあった。 はじめて入るホテルの部屋。 家族と旅行する時に泊ったホテルとは、 だいぶ印象が違う。 カオルもユキも無口になり、 お互いの心臓の音だけが聞こえてくるようだった。 カオルの話が急に途切れた。 晃二は沈黙の中で身じろぎもせず、 カオルの次の言葉を待った。 「俺、ダメだったんだよ! ユキを抱けなかったんだ。」 カオルが振り絞るように言った。 それはもう、絶叫に近いもの

カオル #21

その時 通りかかったのが杉原雄三、 晃二の父だった。 すぐに警察と救急車が来て、 あたりは騒然として大騒ぎになった。 カオルも事情聴取を受けるため、 警察に連れられていった。 「あの時、杉原さんがとても気づかってくれて 俺は関係ないって証言してくれて。」 カオルは18歳だった。 本来なら親が引き取りに来る年齢だった。 しかし、カオルは頑として家のことは言わなかった。 杉原は心配して翌日も警察に赴き、 カオルの様子を聞くと、身元引受人になってくれた。

カオル#22

「バイセクシャル、男も女も愛せるんだ。 杉原さんはノーマルだから、 俺とは愛し合えない。 俺はユキも金髪ちゃんもダメだった。 でも、晃二は。」 そこまで言って、カオルは ためらった。 「・・・晃二には悪いことしたと思ってる。 杉原さんを落とせなくてイラついてた。 晃二があんまり杉原さんに似てるから。」 「俺はおやじの代わりだったのか?」 晃二は思わず声をあげた。 「いや、それは・・・。」 カオルは少し言葉を切った。 「でも、金髪ちゃんを見た時、自分で

カオル#23

「な・・・何も出て行かなくたって。」 晃二は焦って立ち上がった。 「お・・・俺、もう怒ってないよ。 柚季のことは 柚季を傷つけないように したことだろう。 俺のことは・・・、もう気にしてないよ。 カオルの気持ちは、前から気づいていたしね。」 カオルは少し笑った。 「こんな俺でも、止めてくれるのか。」 「こんな俺って何だよ。 カオルが男しか愛せないのはカオルのせいじゃないだろ。 俺は・・・俺はカオルが好きだよ。 カオルがおやじのことが好きでも、俺は。」