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巴の龍 #1(地図付き)

そぼ降る雨が少女の体を容赦なく濡らしていた。

北燕山(ほくえんさん)の奥深く、

人も通わぬ 獣道で、少女は泥にまみれ

着物をひきずるようにして歩いていた。

杉木立が生い茂り、遠く近く 獣の鳴く声が響いてくる。

少女は足を止めず、ひたすら歩く。

よく見ると着物は ところどころ破け

長い髪も雨に濡れて 顔にべたりとはりつき

そして その顔を見た者は 

誰もが生気のなさに驚くだろう。

雷鳴がとどろいても 少女は足を止めない。

少女の視線が稲光をとらえた。


「よし!」

峠の国境で兵衛(ひょうえ)は、来良(らいら)の国に

別れを告げるように気合いを入れなおした。

この峠を越えれば甘露(かんろ)の国だ。

これで自由になれる。

この十六年間 背負ってきたものを

捨てられる。

後ろめたさがないわけではない。

育ててくれた叔父の洸綱(たけつな)や

叔父の娘で いいなずけの(あおい)。

特に兄妹のように育った葵には、

罪悪感があることは否めない。

しかし、もう後戻りはできない。

兵衛はそっと自分の胸に手をあてた。

ふところには、刀の柄(つか)のみが

おさめられている。

別れた母の形見であり、

今はお守りのようなものだ。

兵衛はもう一度だけ 来良の国の方向を見ると、

振り向きもせず甘露の国へ道を急いだ。


バサリと巻物が落ちた。

兵衛の手紙は、幾重にもたたまれ

巻物にようになっていた。

「ち・・・父上」

手紙を落として呆然とたちつくす洸綱にかけよると、

は手紙を拾って読み始めた


巴の龍 #1


地図(モデルは九州ですが、私の線が下手すぎる。2001年作成)


最新作駒草ーコマクサー」
かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね


SIRIUSの小箱」ってなあに?
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巴の龍(ともえのりゅう) #2 へ続く
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