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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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#青天を衝けの時代

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#67

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#67

14 脱隊騒動(2)

 事態は動いていた。山口の藩政府が状態が改善しないことに不安を感じ、藩知事の居館を警備させるため萩から干城隊を動かそうとした。
 それに反発して脱隊兵たちは藩知事を警護するといって、山口の藩知事居館を包囲する行動に移していた。しかも、救援に向かった干城隊を打ち破った。木戸は小郡に逃れて、野村靖や三好たちと対策を話し合っていた。
 東京についた聞多は、兵部省に赴き事態の説明を

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#68

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#68

14 脱隊騒動(3)

 その頃下関にいた木戸は、常備軍、第四大隊、兵学寮からの兵を集結させて、脱退兵の討伐のため小郡を襲撃するところから始めた。しかし相手は戦の場数を踏んでいる者たちで、反撃を受け三田尻まで後退せざるを得なかった。
 態勢を立て直していた木戸に対して、西郷隆盛が視察に訪れていた。そもそも強硬手段に出てほしくないと考えていた節があると、木戸は見ていた。しかしもう戦が始まっていたため

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#69

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#69

14 脱隊騒動(4)

 やっと湯田の井上の屋敷に入ると、母上が待っていた。
「只今戻りました」
「母上、起きていて大丈夫なのですか」
「この家を取り仕切るものがいなくては、と戻ってきたのですから。やるべきことがあるというのはありがたいこと」
「母上がそうおっしゃるのなら、僕は何も申しませぬ。その赤子は」
「光遠の忘れ形見じゃ。勇吉と名付けた」
「兄上のお子ですと。それにしても勇吉とは僕の幼名では

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#80

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#80

17 遣欧使節団と留守政府(1) 政府は廃藩置県後太政官制を打ち出し、その職制と事務章程を制定した。大臣・参議などにより構成される最高意思決定機関としての正院、立法機関としての左院、各省の卿・大輔などで構成される行政機関の右院が置かれた。
 大蔵省を事実上掌握したのは大輔の馨だった。頭の中にあった国家を開化進歩させる案を実行に移すことにした。政府の権威と意見意見の一致を見るための、立法官重視では

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#81

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#81

17 遣欧使節団と留守政府(2)  

 一方大久保は馨から話を聞いて、早速岩倉に使節団への参加を希望する文を送っていた。洋行できる期待が大久保の中にあった。
 馨は、一度は理解不足で邪魔な木戸と大久保を洋行させて、考え方を変えさせるのはいいことだと思った。
 しかし木戸と大久保の不在の大きさを前に、馨の意見が変転してしまっていた。大久保に使節団への参加を取りやめてほしいと言ったこともあった。さす

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#82

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#82

17 遣欧使節団と留守政府(3) 

 馨は結局大隈のところに顔を出すことなく、渋沢とともに大久保の家に向かった。二人が大久保の家に着き、案内の女中に手土産を渡しているところに大隈も到着した。
「馨と渋沢は一緒だったのか」
「すまん、あれから大隈のところに顔を出す暇がなかったんじゃ。まぁいいじゃないか。一緒に案内してもらえば」
 大隈は馨がいつもと変わらない様子だったので安心した。
 夕食会は一応

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#83

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#83

17 遣欧使節団と留守政府(4)

 いよいよ使節団が出発するとなった前日、壮行会が開かれた。
とりあえず岩倉さんにはこの場でご挨拶でもと、近くに寄って酒を継いだ。
「お願いすることでは無いとは思いますが、木戸さんのことよろしくお願いします。そして、約定書の件もありがとうございました」
「あんたはんが、辞めると言い出したときは肝を冷やしましたよ。大蔵はあんたはんがおやりになるしかないのですから」

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#86

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#86

18 秩禄公債(3)

 年が明けて、馨はオリエンタルバンク主催のパーティー出席した。
「ミスター井上、お越しいただきありがとうございます」
「ミスターロバートソン、こちらこそ、色々お世話になっております。中々のご盛況で」
「このように沢山の方々にお支えいただいて、成り立っています」
「我が国にとってこちらは海外への窓のような所です。今後ともよろしく願いたい」
「確かに、我々もご協力できるのはうれ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#93

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#93

19 予算紛議(3)

「定額」を一刻も早く決定していかなくてはならない。時間は待ってくれない。大隈と結局西郷隆盛の協力を得て、「定額」に関する会議を開くことになった。
「概要は私、渋沢がご説明いたします」
「定額とは、一年間の必要経費のことになります。基本筆記具などの消耗品から官員の出張旅費、新規の備品、事業費などを計上することです。これらの必要項目には計上の理由をつけてください。たとえば工具は

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#94

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#94

19 予算紛議(4)

 今日は晴れがましい日になった。鉄道が新橋と横浜の間だが開通した。馨は博文と大隈の資金に関する相談にはのったが、具体的には関係していなかった。それでも、工部省の責任者の山尾と井上勝は、イギリス密航仲間だ。二人の力があればこそ開通できたのだと思うと誇らしかった。
「狂介、流石に直垂姿は様にならんの」
「そういう聞多さんも、布にくるまれているようですよ」
「ふん、まぁええ。そう

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