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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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2022年5月の記事一覧

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#77

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#77

16廃藩置県(3) 東京では大隈が木戸に参議の就任を働きかけていた。なかなか就任しようとしていなかったが、西郷も参議にすると決定し受けたことから、木戸も参議に就任することになった。
 また木戸の提案で、制度取調掛というのを設けることになった。木戸や薩摩から兵を率いて東京に戻っていた西郷隆盛や大久保、肥前の江藤新平と大隈重信、佐々木高行、そして馨も入っていた。庶務掛として渋沢栄一と杉浦も参加していた

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#78

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#78

16廃藩置県(4)  馨はまた木戸に面会をするべく動いた。すると、江藤新平のもとに居るということがわかった。面倒なところだと思ったが、時間も惜しいので、江藤の家に行き木戸に話をした。すると帰宅した木戸から馨の家に使いが来て、7月9日木戸の家で薩摩方と会議をするので来るようにと告げられた。もちろん行きますと使いに伝言を頼んだ。
 7月9日は物凄い暴風雨が東京を襲っていた。それでも夕刻、木戸の屋敷に西

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#79

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#79

16廃藩置県(5)  今度は渋沢が大久保と対立した。その渋沢が馨の家に訪問してきたのだった。書斎に通されるなり、渋沢はまくし立てるように言い出した。
「はぁもう、大久保さんのもとでは仕事ができません。無理です」
「なんと、そねーに気短なことでは。じっくり話してみぃ」
「私が気短ですと。井上さんにそうおっしゃられるとは不甲斐ない」
渋沢の言葉に馨は苦笑いを隠せないでいた。
「大久保さんが、陸海軍省の

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#80

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#80

17 遣欧使節団と留守政府(1) 政府は廃藩置県後太政官制を打ち出し、その職制と事務章程を制定した。大臣・参議などにより構成される最高意思決定機関としての正院、立法機関としての左院、各省の卿・大輔などで構成される行政機関の右院が置かれた。
 大蔵省を事実上掌握したのは大輔の馨だった。頭の中にあった国家を開化進歩させる案を実行に移すことにした。政府の権威と意見意見の一致を見るための、立法官重視では

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#81

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#81

17 遣欧使節団と留守政府(2)  

 一方大久保は馨から話を聞いて、早速岩倉に使節団への参加を希望する文を送っていた。洋行できる期待が大久保の中にあった。
 馨は、一度は理解不足で邪魔な木戸と大久保を洋行させて、考え方を変えさせるのはいいことだと思った。
 しかし木戸と大久保の不在の大きさを前に、馨の意見が変転してしまっていた。大久保に使節団への参加を取りやめてほしいと言ったこともあった。さす

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#82

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#82

17 遣欧使節団と留守政府(3) 

 馨は結局大隈のところに顔を出すことなく、渋沢とともに大久保の家に向かった。二人が大久保の家に着き、案内の女中に手土産を渡しているところに大隈も到着した。
「馨と渋沢は一緒だったのか」
「すまん、あれから大隈のところに顔を出す暇がなかったんじゃ。まぁいいじゃないか。一緒に案内してもらえば」
 大隈は馨がいつもと変わらない様子だったので安心した。
 夕食会は一応

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#83

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#83

17 遣欧使節団と留守政府(4)

 いよいよ使節団が出発するとなった前日、壮行会が開かれた。
とりあえず岩倉さんにはこの場でご挨拶でもと、近くに寄って酒を継いだ。
「お願いすることでは無いとは思いますが、木戸さんのことよろしくお願いします。そして、約定書の件もありがとうございました」
「あんたはんが、辞めると言い出したときは肝を冷やしましたよ。大蔵はあんたはんがおやりになるしかないのですから」

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#84

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#84

18 秩禄公債(1)

 内議で決していた事業のうちまず取り掛かろうとしたのは、華士族に対する俸禄の処分についてだった。華族と士族に藩政下で支給されていた俸禄を新政府について賄いきれるものではないため、削減をした上で禄券という証券にして配るというもの。士族の俸禄の削減は藩政下でも行われていて、他に生活の糧を持たないものについては農業をできるようにしたり、生業を得るための助産をするという保護策も設け

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#85

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#85

18 秩禄公債(2)

 明日は公債について方針を決定をする必要があった。例えばと、財務の基本方針になることを書き出してみた。財務といえば別にもう一つ、外貨収入があったのを思い出した。これを正貨として、別会計で蓄えておけば通貨の準備金に使える。
 別会計といえば、そうだ長州で行っていた撫育金。勧農資金も独立採算で別会計を使えば、国庫支出を抑えることができる。このことも明日の議題にすることにしよう。

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#86

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#86

18 秩禄公債(3)

 年が明けて、馨はオリエンタルバンク主催のパーティー出席した。
「ミスター井上、お越しいただきありがとうございます」
「ミスターロバートソン、こちらこそ、色々お世話になっております。中々のご盛況で」
「このように沢山の方々にお支えいただいて、成り立っています」
「我が国にとってこちらは海外への窓のような所です。今後ともよろしく願いたい」
「確かに、我々もご協力できるのはうれ

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