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アングラ文化全盛の時代にキラキラした才能を見つけた。


高校時代は昼食代を倹約して映画、レコード、古本に費やしたが、大学の映画制作同好会で映画づくりのまねごとを始めてからそれでは追いつかなくなった。

8ミリではものたりない。

16ミリの機材をそろえるためにお中元やお歳暮の季節になると砂糖問屋の倉庫で砂糖と汗でベトベトになりながら荷積みのアルバイトを続けた。

【きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第16回】

SPP(セントポール・プロダクション:立教大学映画制作同好会)の合宿に向かう日と重なったためにビートルズ日本公演のチケットを泣く泣く手放した悲しい思い出は『きっかけ屋 アナーキー伝』に書きました。

ぼくらの現役時代にはSPPは飲んだくれ集団だったけれど後々立教ヌーベルヴァーグとして知られるようになった。


そんな時代に映画、演劇、音楽、絵画などに斬新な息吹を吹き込んだのが怪しげで胡散くさい魅力満載のアンダーグラウンド旋風だった。

連日映画制作のかたわら東映ヤクザ映画からアングラ映画まで追いかけていた。

青山の草月会館地下で開催された「草月シネマテーク」や新宿アンダーグラウンド蠍座で上映されたアングラ映画に通って全身に時代の空気を浴びていた。

黒い皮ジャンを着たオートバイ・ライダーたちを淡々と撮影したアングラ映画の元祖ケネス・アンガーの1963年の作品『スコピオ・ライジング』。


1964年にアンディ・ウォーホールがスローモーションで8時間5分間エンパイア・ステート・ビルを撮り続けた16ミリのモノクロ無声映画『エンパイア』は伝説のアングラ映画日本上陸などとあおられて駆けつけたがおもしろくはなかった。

そんなとき一人の映像作家が目にとまった。

1968年5月18日から6月30日にかけて蠍座で開催された「大林宣彦回顧展 その映画への愛と祈り」で大林監督の個人映画(16mm)4本が上映された。

『EMOTION 伝説の午後いつか見たドラキュラ』(1967)の斬新な映像と全編からにじみ出る映画への愛情の深さに胸がつまった。

映画をこんなに愛している監督が日本にいたとは。

大林監督はその後も自主映画をつくり続けながら数々のCFを手がけてめきめき頭角を表していく。

「レナウンワンサカ娘」、長門裕之&南田洋子の「カルピス」、高峰三枝子&上原謙の「国鉄フルムーン」、山村聰の「トヨタ」、山口百恵&三浦友和の「グリコアーモンドチョコレート」などのヒットCFを演出し、アメリカでも無名だったチャールス・ブロンソンを起用して大ヒットした「マンダム」や、ソフィア・ローレン、カトリーヌ・ドヌーヴ、カーク・ダグラス、キャサリン・ヘップバーン、リンゴ・スターなど世界的なスターをテレビ・コマーシャルに登場させた張本人でもある。

特にアメリカのエージェントの反対を押し切って無名の新人チャールス・ブロンソンを起用した整髪料マンダムのCFは丹頂株式会社を株式会社マンダムに社名変更するほど空前の大ヒットとなった。


1977年7月30日。

『伝説の午後いつか見たドラキュラ』を観て以来10年間待ちつづけていた大林監督メジャー映画第1作『HOUSE ハウス』の公開初日。

渋谷東宝はなんと満員御礼。

立ち見はつらいので翌日早朝一番に出直した。

大林作品が集客したのではなく三浦友和、山口百恵主演の『泥だらけの純情』の併映だから混んでいたのだ。

『HOUSE ハウス』は斬新な映像の連続で予想を上回る面白さ。

手放しで大よろこびしたもののコマーシャルをつなげただけの作品だと酷評した映画評論家も出るほど批判者も多かった。

『HOUSE ハウス】は大林監督ならではの特殊効果で彩られた怪奇マンガ。

後ろの席に座っていた幼児が「怖いよ~」と泣きはじめたことをいまでも覚えている。

『HOUSE ハウス』(1977)以外にぼくが好きな大林作品は『転校生』(1982)、『時をかける少女』 (1983)、『異人たちとの夏』(1988)、『理由』(2004)、『野のなななのか』(2014)。


大林監督28歳の時の16mm自主映画『EMOTION 伝説の午後いつか見たドラキュラ』から79歳『花筐/HANAGATAMI』に至るまで大林作品には常に「切なさ」と「さよなら青春」が画面から溢れている。

大林監督が「ぼくは映画を見る前に創っていたんです」とエッセイに書いているのを読んだ時にあっと思い出したことがあった。


この続きはまた明日。

明日は『骸骨面』からシネラマ映画に連なる立体映画について語ります。

明日もお寄り頂ければ嬉しいです。


連載第一回目はこちらです。
第1回 亀は意外と速く泳ぐ町に住むことになった件。


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