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人は他人と繋がっていなくては生きていけない、生きていく意味がないことを教えてくれた異形の人たち。

CS放送のボランティア・福祉チャンネルの番組制作に誘ってくれた大学時代の友人が制作費を着服してトンズラした挙げ句、別件の詐欺罪で刑務所送りになったことは前回書きました。

ビデオ「ベリー・オーディナリー・ピープル予告編1」の放送許諾を本人たちにもらえたというのに情けない話で頓挫してしまった。

【きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第87回】

べてるの家は、人口1万6千人、北海道のえりも岬に近い太平洋岸沿いの小さな町、浦河町にある精神障害者たち自身が運営する共同住宅・作業所で全国各地から集まった16歳から70歳代まで約150名の障害者が参加している。

ある者は住み込みである者は日赤病院から毎日通ってくる。

1984年開設当時からここで行われている画期的精神医療法は、21世紀の医療を先取りしている。1998年、べてるの活動は日本精神医学会第1回奨励賞を受賞したそうだ。

テレビや新聞などでも何度か紹介されていて。2000年2月18日放送のTBS「ニュース23」ではメンバーが出演した。

1992年に自費出版された「べてるの家の本」はロングセラーとなり、ビデオ「ベリー・オーディナリー・ピープル予告編」は8巻まで制作・上映され斉藤道雄著「悩む力・べてるの家の人びと」は第24回講談社ノンフィクション賞を受賞している。

「べてるの家」をバックアップするソーシャルワーカーの向谷地生良さんと精神科医の川村敏明さんの名コンビは全く同じセンス・オブ・ヒューモアの持ち主だ。

べてるの家が設立されて以来、二人とも幾多の壮絶な経験をしているがどんな事件も笑い話にくるめて淡々と話をする。

笑いと五感の調律がぼくの人生の重要なテーマでそれに密接に関連しているのが"正常と異常"。

いったい誰が正常で誰が異常なんだろう?

最大多数が正常と見られて、少数派が異常とみなされる価値観をもった世の中は不健康だと思う。みんながばらばらだけどお互いの価値観を認め合い、世の中とゆるやかな関係性を保って生きられるのが健全な社会だ。

順位はつけられないしつける必要もない。

みんながオンリー・ワンで一等賞。

大笑いと感動が待ち受けているビデオ「ベリー・オーデイナリー・ピープル」シリーズをぜひご覧になると画面の中のべてるの住人たちから「あのね、あなたはかなり疲れている、ちょっとおかしいから少しゆっくり休んだほうがいいな」とアドバイスされると思う。

知的障害者のことを考えるようになったきっかけが「べてるの家」で身体障害者のことを考えさせられたのがドッグレッグスだ。

ドッグレッグスはノンフィクション作家北島行徳 (ゆきのり) が率いる障害者プロレス団体だ。

講談社ノンフィクション賞を受賞した北島行徳の「無敵のハンディキャップ」の破天荒な面白さに仰天して下北沢にある北沢タウンホールに障害者プロレスを見に行ったのが2002年のこと。

身体障害者のプロレス?

どんな見世物なんだろうという興味に惹かれた。

子どものころに池上本門寺のお会式を見に行くと、境内には必ず見せ物小屋が建てられておどろおどろしくまがまがしい雰囲気を醸し出していた。

怖いもの見たさで中に入って見せられたものは、すべて偽物やまがいもの。毎回、だまされたな〜という割り切れない気持ちで小屋をあとにした。

怖いもの見たさで特設リングが設置された下北沢の北沢タウンホールにでかけた。

約1時間半、目の前で行われた障害者プロレスには、おどろおどろしさなど微塵もなく、偽物でもまがいものでもない。

不自由な身体を精いっぱい鍛え、趣向を凝らした衣裳を身にまとい、独自なキャラクターでどうだ!と観客を沸かせ笑わせる彼らのエンタテイナーぶりには笑いで応えるしかない。

場内は声援と爆笑の連続でやんややんやと熱気を帯びていた。

以前、木村伊兵衛賞を受賞した北島敬三さんの写真集「ニューヨーク」を見た時のことを思い出した。

星条旗を振りかざした下半身のないヒッピーが、スケボーで街を走っている写真を目にしたので「北さん、こんな奴が目の前に現れたら、目のやりどころにこまるよな〜」とぼくが言うと北島さんは「何言ってんのよ、こういう自己顕示欲が強い奴らは、ちゃんと見てやんなくっちゃ失礼なのよ」と答えた。そりゃそうだ、と、ぼくは深く納得した。

ドッグレッグスが選んだのがプロレスだから笑える。

単なるレスリングなら競技なので面白がってはいられない。格闘技の中でもっとも演劇に近いプロレスを障害者たちがやっていることですでに、人に受けたい、笑わせたい目立ちたい、というエンタテイナー精神があるということなんだ。

笑いとはシェーマ(規範)のずれにより生じる。

目の前のマットの上で異形の人たちが思いっきりプロレスを演じている。それは、普段見慣れた風景とはまったく異なった次元をかいま見ることだから、そのずれが強烈な笑いを呼ぶことになる。

面白さに輪をかけているのが、リング・アナウンサー新垣女社長の爆笑コメントの数々だ。

幼い頃親に捨てられて、IQ81、知能障害ぎりぎりだったために普通校に入れられて育った菓子パンマン選手を評した彼女、「何しろ菓子パンマン選手は、親無し、家なし、知能なし、三拍子そろっているからすごいですよね〜」。

場内は大爆笑で観客に受けた菓子パンマン選手はうれしそうだ。

身体障害者プロレス「ドッグレッグス」も、心身障害者が運営する「べてるの家」も同じことを教えてくれる。人間は、他人と繋がっていなくては生きていけない。生きていく意味がないということだ。

ドッグレッグスの選手たちは、プロレスで食べているわけではない。それぞれが仕事を持ち、好きでプロレスを続け、それが生き甲斐となっている。

最後までお読みいただき有難うございました。

次回もお寄り頂ければ嬉しいです。

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2002年に書き始めたブログ「万歩計日和」です。


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