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編集者が『編集思考』を読んで考えたこと:「流通」と「信者」

このタイトルは編集者としては読まないわけにはいかない…
という本が、時折あります。

佐々木紀彦さんの著書『異質なモノをかけ合わせ、新たなビジネスを生み出す 編集思考』もその一つ。
そのまんまですが。

率直な感想は「この内容でこの分量は多いかなあ…」ですが、
気になる箇所は随所にあり、面白く読みました。

気になったところをピックアップしていきながら、
出版業界や自身の仕事について考察していきます。

■メディアは細っていくばかり

過去の歴史を見ても、流通と製造の両方をつなげないと、
メディアは細っていくばかりです。
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重要な指摘だと思います。

新たな流通をどう作っていくか、
2020年代こそ、出版業界が本腰を入れないといけないと思います。

米国のテレビ局は自らネットフリックスという巨大なライバルを育ててしまいました。
日本における新聞社とヤフーの関係に似ています。
新聞社はもはやヤフーの下請けです。
うまく新聞社を懐柔しながら、毒まんじゅうを食わせたヤフーのファインプレーです。
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同感です。

今頃になって「ヤフー、ひどい!」と文句を言っているウェブメディア関係の方がたまにいます。

その気持もわからなくないのですが、あえて厳しい言い方をさせてもらうと、
そうなることは自明だったのに、目先の小銭を拾い続けてた自分たちに責任がある
と思います。

■ショーランナーという存在

ショーランナーこそ、まさに編集思考を体現しています。
1つひとつの分野のプロになるだけでなく、主要な機能をすべて自分一人で負うことができる。
いわば、一人垂直統合モデル、一人SPAです。
ひととおり自分でできることが増えれば増えるほど、力を貸してくれる各分野のプロのネットワークが広がり、唯一無二の存在になれます。
今、マルチな才能を束ねる才能の価値はどんどん高まっているのです。
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ショーランナーの具体例として挙げるのが、ハリウッドきってのヒットメーカーで、「スター・ウォーズ」シリーズの新たなる3部作の1作目「フォースの覚醒」で製作・監督・脚本を兼ねた、J・J・エイブラムスです。

J・J・エイブラムスは、
単に自分の創ったストーリーとIPを売りにするだけではなく、
IPを用いた派生ビジネスもすべて手掛けようとしています。
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すべての中心はエイブラムス。
彼が作品を創り、そこからあらゆる商品に二次展開、三次展開していき、エイブラムスワールドを広げていく。
1人のクリエイティビティがこれほどにまで拡張する時代が到来している
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コンテンツへの需要が高まるにつれ、日本でも、プロデューサー、脚本家、クリエーターといったIPとストーリーの種を持つ才能の引き抜き合戦が加熱するでしょう。
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2020年代はきっと
自らがIPを保持した編集者
という存在が際立ってくると予想します。

■「信者」のいないネットフリックス

(ディズニーと比較して)
ネットフリックスは、作品ごとにニッチなファンを抱えてはいるものの、「ネットフリックス信者」といえるほどの濃さはありません。
どうしても見たいコンテンツがあるときはネットフリックスに加入しても、それを観終われば離れる人も多いはず
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この箇所を読むと、
流通を握ることは不可欠、
でも、それだけでは不十分、
ということを痛感します。

【濃いファンをたえず満足させながら流通を握る】
という、難易度は高いながらも挑戦し甲斐のあることに、
出版社は(ギリギリまだ)アドバンテージがあります。

のちのち、誰かに「そうなることは自明だったのに、目先の小銭を拾い続けてた自分たちに責任がある」と言われないように、尽力していこうと思っています。

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