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女児が「女子」になる日|#109
その日、いつものように保育園に迎えに行くと娘が泣いていた。
あれ、どした?
いつもは和気あいあいと遊んでいるのに。出入り口で立ち尽くし、泣いている。
奥のテーブルには同じクラスの女の子が2人。視線は塗り絵に落としたまま、娘を見送りに来た先生と私とに向かってこう放つ。
「だって、○○ちゃん(娘)が『うんち』って言うんだもーん」
「言っちゃダメなんだよねえ、そういうの」
「ねーっ」
ああ、そういうこと。
きっと娘は、その女子2人と塗り絵をしていたんだろう。どちらも日頃から仲の良い友達だ。そして口が達者になる4歳、いろいろな言葉を言ってみたい4歳は、何かの拍子で「うんち!」と言ったんだろう。それを彼女たちは聞き逃さず、あげつらったんだ。その対応がつらくて、娘は泣いてしまったんだろう。
ま、どれも4歳あるあるだ。
ただ、娘をあげつらった女子2人の「物の言い方」がわずかに気になった。
いや、彼女たちの行動を責めるつもりはない。4歳あるあるなわけだし、大人が首を突っ込むことでもない。こうしたいろいろな経験を通じて、娘も彼女たちも大きくなり、人間関係を学んでいくのだから。ここは娘と彼女たちで乗り越えていけばいい課題だ。
私が気になったのは、2人の言い方が完全に「女子」だったことだ。驚いたと言ってもいい。
そう、小学校高学年を彷彿とさせるアレだ。クラスの中で「正しい」とされる意見や発言力のある人の言葉に、ある女子グループが賛同を示す時の「ねーっ」そのものだった。
ああ、4歳はもう「女子」なのか。早熟なのか、そういうものなのか、私の感覚がついていっていないだけなのか…
* * *
私はあの「女子特有の連帯感」が苦手だった。保育園の頃には疑問に思っていた記憶があるから、もう気質なんだろう。
小学校、中学校、高校までずっと「連帯感」とは距離を置いていた。大学生になって「クラス」という概念がなくなると同時に「連帯感」も生活から姿を消した。こんなに晴れやかで自由なのかと驚いたものだ。
なぜ苦手だったか?そういう気質だから、としか考えられない。
常に特定の人とグループになる。人の数の分だけ考えがあるはずなのに、なぜかメンバーの意見はいつも同じ。グループ内に暗黙のルールがあり、外れることは許されない。
…そんな一つひとつが、私は「理解できなかっただけだ。いつも「もっと自由でいいじゃん」と思っていた。
だからいつも私は異質。遠足や修学旅行でグループを作るとき必ず最後に1人残る。察した先生が「どこか人数足りないところ、ないか?」、そんな存在。自分では取り立てて気にしていなかったけれど。
* * *
娘が友達との出来事をどうとらえているのか、泣くほどつらかったのか、それともショックで泣いたのか、そんな真相を知りたくて、その日の夜、何気なく娘に尋ねてみた。「何があったの?」と。
タイミングを見計らいつつ時間をおいて2回聞いてみた。2回とも、娘はわずかに眉間にしわを寄せながら「なんでもないよ」と話題を変える。
話したくない、ってことか。
その晩、湯船に浸かりながら娘にこう言った。
私はあなたのことが一番大事。何かつらいことや嫌なことがあったら、お話聞くからね。誰かに聞いてもらうことで、気持ちが楽になることってあるからね、と。
伝わったかはわからないけれど、元気に「うん!」とうなづいていたところを見ると、まあ大丈夫だろう。
娘の性格は、「女子の暗黙の連帯感」が苦手だった私に似ていると感じることがある。たまに見かける友達とのかかわりや距離の取り方を見て。
娘も、もしかしたら学校に上がってから「女子の人間関係」に苦労するかもしれない。そんな予感が、母の脳裏をよぎる。
仕事柄、現代の学校事情・子どもたちの人間関係の話を耳にすることも多いから、今の子どもたちが置かれている環境の複雑さや深刻さは知っている。昔の感覚でいたら足元を掬われかねない。
娘が悩むようなことはないのが一番だけれど。何かあるかもしれない、いやきっとある、それくらいの心づもりでいた方が良さそうだ。母として、娘を安全に健やかに育てるために。
そんなことを思った娘の涙だった。
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