見出し画像

第五話 〜2つ目の壁〜

【波乱のオープン、そして第二子出産】

「私は、あなたのことを『先生』とは呼べません!
私には尊敬できる先生が他にいますので、せめて、
『店長』と呼ぶことにします。」

オープン当日、以前よりこのお店に在籍している
スタッフの言葉です。

これって、私、嫌われている?

スタッフの言葉に呆然とする私。

とにかく今日はオープン!
そんな感情に振り回されるヒマは無かったのです。

オープンとはいえ、チラシも雑誌掲載も、
今のようなSNS集客も何もやっていない。

友人知人、親戚とかに伝えていただけの、
ささやかなオープン。

これから、集客方法を学ばなければ!

チラシ、ポスティング、ハンティング、
いろいろやらなければ!

幸いな事に、時はバブル真っ只中!

徐々に、お客様の来店も増え、経営ど素人の私のサロンも活気を帯びてきたのでした。

そして、私のお腹も大きくなり、
ドクターストップが何回もかかるような、
そんな状況が続くのでした。


【出産、奇形、手術】

年が明け、いよいよ臨月になった私は、
サロンを休み出産に備えることにしました。

しばらくしたある日、私は突然お腹に痛みが走ったので、ひとりで入院の準備をし、タクシーを呼びました。

母は、長男を連れて出かけていて留守でしたし、
夫は仕事で現場に出ていたのです。

2月20日、その日だけ春のようなぽかぽかした陽気で、
近くの園児達の笑い声が聞こえていたのを覚えています。

病院に着いたらすぐに分娩台へ!

第二子となると、一子の時とは比べ物にならないぐらい、軽いお産でした。

「元気な男の子ですよ〜」

(良かった。大変な時にこの子とお店を頑張ったんだ。)

そう、思いながら、我が子との対面を待っていました。

「お母さん、ちょっとこの子は
救急病院に連れて行かなければなりません。」

ベッドに横になっている私に、看護師さんの意外な言葉!

「えっ?」
「元気なんですよね?どうしてですか?」

上体を起こし、必死になって尋ねました。

「元気ではありますが、、、」

煮えきらない看護師さんの態度…。

何がどうなっているのかわからない。
病院側は、夫に連絡を取っているが、
なかなかつかまらないという。

夫の来院を待ち

生まれたばかりの、私達の赤ちゃんは
救急車に乗せられ
救急病院に搬送されて行きました。

何が起こったのだろう…

私の大切な赤ちゃん

“お願い、神様!!”

枕に顔をうずめ、声を出して泣きました。

ごめんね
ごめんね
私がムリをしたから、赤ちゃんごめんね。

泣いても泣いても涙が止まらない。
どうしようもない不安と愛おしさと、
罪悪感で押し潰されそうな長い夜でした。


【赤ちゃんの生命力】

『二分脊髄髄膜瘤』

病名が下されました。
背中の皮膚の一部が閉じられずに
開いたままとなってしまい、髄液が流れ落ち、
そこに袋状態となって、
コブのようなものができているとのこと。

このコブの切除手術をしなければならないというのです。
コブの中にどんな神経があるのかわからない。
もしかしたら、脚部が温度を感じない、
また、脊髄損傷で尿意も感じないという
後遺症が残るかもしれません…と。

そんな身の毛もよだつ恐ろしい説明が続いたのち、
同意書にサイン。

(この子の生命力を信じよう!)

そう、信じることしか私達には何もできませんでした。

生まれて3日めの手術。
私は動けず、ベッドの上。
夫はただひとり、病院で生まれたばかりの我が子の手術に立ち会っていたのでした。

ただ、ただ、涙が止まらない私。

カラダの中から水分という水分が、
枯れるほど、泣いた。

一生分、この時に泣いたかも知れません。

“ 神様…!! ”

どれくらいの時間が流れたのでしょう。

「手術、成功しましたよ〜!」

廊下を走って来る看護師さんの声がしました。

「赤ちゃん、がんばりましたね!」

看護師さんの顔が、笑っているのか、泣いているのか、
クシャとなりながら、
私の手をそっと握りしめてくれました。

窓には、
白い雪に雲の隙間から顔を覗かせた陽の光が当たり、
キラキラと漂っていました。

きっと、父が、
見守ってくれたのかもしれません。

お父さん、ありがとう。

続きを読む


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
プロローグ~成功と失敗~
第一話~強い使命感~
第二話~1つ目の壁~
第三話~運命の仕事、ヒト~
第四話~人生の転機~
第六話~再起から頂点へ~

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?