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白だけの世界を思い出したくて

何もない。白以外、何も。

 


冬が来ない。


関東へ来て1年目の感想だ。10月になっても11月になっても暖かい。
いつになったら寒くなるんだろう。
寒くなりきらないまま、雪が降らないまま、
桜が咲く。


雪のない冬。


冬なんて苦手な季節だった。寒さも嫌いだし雪かきだって大変だし。
冬なんて憂鬱な季節だった。
早く春にならないかな、そればっかり考えてしまう。


それなのに、雪が見たい。

 

 

 

 

10年ぶりに冬の地元へ帰省した。
友人と会うため八戸の中心街へ向かう。
どんよりとした空。
寒いというより空気が刺さるように痛い。
こんなだったっけ。身体がガタガタと震える。
10年も経つと関東の冬に体が慣れてしまったのだろう。

〝そっかー、冬は帰ってこないよね。あ…
降ってきたね〟

雪が降り始めた。

〝わぁ…雪なんて久しぶり。〟

〝懐かしいでしょ〟

〝うん…冬なんてキライだったのにな。雪見て感動しちゃうなんて。〟

しばらくじっと窓の外を見つめてしまった。

 

 友人は妊娠3ヶ月だった。私は最近転職した。
お互いに色々と環境が変わっている。
近況報告したり、懐かしい話で盛り上がったり、
つかの間の時間を過ごして別れた。

 

 

帰り道、なんだか冬を思い出したくて少し遠いバス停にわざと降りた。

国道45号線、蒼前のバス停。ここからうちまでは歩いて15分くらい。
家から5分もかからない場所にもバス停はある。
小学校経由。ただ、最終の時間が早い。

高校時代、部活が終わると小学校経由のバスは
ない。
いつも国道経由のバスに乗って、歩いて帰って
いた。夏でも冬でも。

 

 

夜の雪道を1人で歩くのが好きだった。
氷のような星を見上げながら。夜色に染まった雪を踏みながら。
雪は音を吸収する。
めったに車も来ない。しんとした夜の雪道。
頭の中も心の中もしんとする。
空っぽになる。何もなくなる。
全てがリセットされていくような、不思議な感覚が訪れる。

 

 

私、冬なんてキライだったはずなのに。

 

 

初雪が降ると無条件にテンションがあがる。
晴れた朝の光が反射してキラキラする雪。
白と空色だけのクッキリした世界。
羽のようにヒラヒラ落ちてくるボタン雪。

 

 

私、冬好きだったのかな

 

 

雪が溶けて
水仙やチューリップの芽の緑と土の茶色が現れる。
そこから春に向けて白一色だった世界が色づいて鮮やかになっていく。
春が来るのが1番好きだった。
でもそれも、雪の季節があってこそ。
関東にいると春が来た喜びは薄い気がする。
生活するには楽でいいけれど。
なんだか物足りなさを感じていた。

 

 

家が近づいてきた。

雪はまだ降り続いている。
グレーの空から雪が落ちてくるのを見上げる。


 

冬も悪くないな。
雪も悪くない。

そう感じられたことが何故か嬉しかった。

 

 

白はリセットとリスタートの色。
どこで知ったんだっけ?

 

〝ただいま〟と玄関を開ける。

 


色々あるけど、なんだか上手くいく気がしてきた。
大丈夫。きっと全部乗り越えていける。

 

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