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みやまる・スポーツブックス・レビュー

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#書評

「栄光」という光の裏側にあるもの:沢木耕太郎『敗れざる者たち』

「栄光」という光の裏側にあるもの:沢木耕太郎『敗れざる者たち』

 中学生の時に2002年のサッカー日韓ワールドカップを取材した『杯(カップ)-緑の海へ-』を読んで以来、スポーツや映画を中心に様々な沢木耕太郎「私ノンフィクション」を読んできた。都会的でありながら、アスリートや役者の肉体にこもる芯の熱くなる部分も忘れない、シャープな文体のファンである。
 今回の『敗れざる者たち』については「なんで今まで読んでこなかったんだろう…」と、少し後悔すら感じるような「珠玉

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「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

 アメリカ合衆国は「complex」の国と聞いた事がある。人種、宗教、思想などが複雑に「複合」している国であり、一方で、そうしたあらゆるものが大陸からの“借り物”であり、そこに「劣等感」を抱いている国という意味だという。だからこそ、合衆国の国技たるアメフトや野球といったスポーツに熱中し、その頂点に立つものはアメリカンドリームを得た者として賞賛を浴びる。
 『素晴らしいアメリカ野球』、『ユニバーサ

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黄金期を作った“寝業師”の面倒見の良さとは:髙橋安幸『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』

黄金期を作った“寝業師”の面倒見の良さとは:髙橋安幸『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』

 所沢の僕の実家の近くに根本陸夫邸があった。根本は99年に亡くなっているし、他の家族が住んでいる気配も無かったので大した接点とは言えないが、それでもずっと掛かっていた「根本陸夫」の表札を見ると背筋がシャンとした。西武ファンとして、野球ファンとしては、名前を見るだけで凄みが伝わる人物であった。

 本著は旧制中学から近鉄まで長らくバッテリーを組んだ関根潤三はもちろんのこと、工藤公康、大久保博元、

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最新の「人材論」をわかりやすく:お股ニキ『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』

最新の「人材論」をわかりやすく:お股ニキ『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』

 タイトルを見て「確かにその通りだけど、そういやどうしてだ?」と思った。このタイトルには昨今の「パ高セ低」の謎を探る、といった意味合いも込められているように感じ、手に取った。西武ファンかつパリーグ贔屓の自分が、ちょっと自慢に思ってるこの現状の、根拠を確認できる良い本だろうと思った。
 お股ニキの本を読むのは初めてではない。千賀滉大を始めとする球団関係者をも唸らせた『セイバーメトリクスの落とし穴』(

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