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APSフィルムの乱

世の中がまだ21世紀になる2年前。

新卒で入社した会社を、1年半で辞め、バックパックを背負って南米に約6週間でかけていったとき、持参したカメラはKonica Revio というコンパクトカメラだった。

このKonica Revio はAPS(IX240)フィルム用のカメラだ。

APSとは何かと一応述べておくと、近年のデジタルカメラのイメージセンサーのサイズ規格のほうでなく「アドバンストフォトシステム」とかいう当時としては画期的だったらしい写真システムのことで、しかしながら、2011年にコダックも富士フィルムもこの規格のフィルム製造を中止してしまったので、残念ながら今ではオワコンとなったシステムです。

ああでも、現在のイメージセンサーのAPS-Cサイズという名称は、このアドバンストフォトシステムのCタイプフォーマットに近いサイズだからついたものなんですね。

このカメラを持っていった理由は、カメラ本体もフィルムも非常にコンパクトで荷物を減らすのにちょうどよかったし、下手に立派なカメラは盗難も心配だったから。

というのは表向きで、当時の私に、南米までの往復航空券と滞在費、直前に通っていた自動車教習所の費用を支払ったら、旅に持っていくための新しいカメラを購入するお金などビタ一文なかったから、だ。

仕方ないので、持っていたこのカメラと、フィルム6本で我慢した。お金がなさすぎて、1週間に1本と考えて6本あれば十分だろうと思っていたのだが、結局フィルムは足りなくなり何本か現地調達することになる。


APS(IX240)フィルムのIXというのは「Information Exchange」の略でデジタル写真のExifのように撮影日時や設定、プリントサイズなどの情報を記録しておける。

また、フィルムのカートリッジには1から4までの番号とそれぞれ形の違う穴が空いていて、その穴の部分が白くなっているかどうかでフィルムの状態が判別できる。1=未使用、2=撮影途中、3=撮影済み、4=現像済みとなり、カメラ本体でこれを読みとることができるので、3や4の状態のフィルムではカメラに装填しても、液晶に撮影済みマークが出て、再びフィルムを使うことが出来ないようになっている。

逆を言えば、普通の35mmフィルムのように未使用ならばカートリッジの端からべろんとフィルムがはみ出しているわけではないので、この数字とマークのところを確認しなければ使用未使用どちらかぱっと判別がつかないともいえる。

こんなフィルムを私は、飛行機のX線検査からフィルムを保護する専用バッグに全部箱から出してまとめて放り込んで持ち歩いていた。マークを見れば、もしくはカメラに入れればわかるだろうと、旅の間、未使用も撮影済みも一緒くたにしていたのだ。

なんて雑な。そしてこの雑さが仇になる。


帰国後、フィルムを現像に出し、プリントされた写真をみて唖然とした。

ペルーを過ぎ、ボリビアに入り国境地帯のチチカカ湖あたりで撮った写真と、その数週間後にパラグアイとブラジルの国境のフォス・ド・イグアスを訪れた前後の期間の写真が多重露光されてしまっていたのだ。

本来なら、重ね取り出来ないはずのフィルムとカメラが反乱を起こし36枚撮りフィルム1本ぶんのほとんどが、何を写したかよくわからない心霊写真のようになってしまっていた。

私は、自分の雑さと不運を呪い、でも、いつかこのリベンジをしにもう一度必ず南米に行かないといけないと思い続けている。


その後、いろいろ精神状態が思わしくない時期もあったので、失敗写真のほとんどやネガはいつのまにか処分してしまっていた。重ね重ね、なんて後先考えないバカなことするんだ自分。

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これは、残しておいた何枚かの失敗二重撮り写真をgoogle のフォトスキャンアプリで取り込んでみたもの、空の上の方のもやは写真をとりこむときの反射によるものだが、チチカカ湖の湖面部分と船にかぶさる白いもやはおそらくイグアスの滝。



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見出し画像はウユニ塩湖で塩のホテルを作っているところ。すぐ上はマチュピチュ。こちらはちゃんと撮れていた写真をフォトスキャンアプリでとりこんでみたもの。

これらの写真もすべてネガを廃棄してしまったので、プリントが劣化しないうちに、きちんと業者にお願いしてデジタルデータ化しておこうと思っている。



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