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【LIFE】ウィーンに暮らす~息子とダイバーシティ多様性の話

ウィーンに住んで30年。5月の日曜日、独立して家を出ていった息子が花を持ってドアの外に立っていた。「?…」

そうだ、母の日だった。建築設計の仕事をしながら、ウィーンで息子を育ててきた。その子育ての日々の思い出から、息子と「多様性」の話。

5歳の息子の質問

ある日、幼稚園から帰ってきた息子が私にこう聞いた。)

「ママ、アレキサンダーは何語を話すの?」

私はチョット考えて、こう答える。

「パパもママもオーストリア人だからドイツ語でしょ。」

すると、息子。

「そんなのわかってるよ。だから、ドイツ語と何語を話すの?

5歳の息子にこう聞かれて、初めて私は彼の幼稚園での環境に気づいた。

彼の幼稚園はごくフツーのウィーンの公立幼稚園。あっ、日本流のシステムの分類でいくと保育園と言った方がいいのかもしれない。(すると、ウィーンは全部の公立幼稚園が保育園となる。ちなみにこちらには”お受験”するために勉強をする幼稚園とかはひとつもない。)

彼の行っていたウィーンのフツーの”保育園”には実にいろいろな国から子供が集まっていた。

ドイツ、フランス、カナダ、イタリア、そして東欧からはポーランド、ルーマニア、ブルガリア…

90年代は旧ユーゴスラビアが内戦だったから、ボスニア・ヘルツェゴヴィナから避難してきたご両親のいるゲント君。息子の親友だった。

そして、この子たちは皆、ドイツ語ともう一つの母国語を話す。幼稚園の共通言語(!)はドイツ語だけれど、家に帰ると彼らの国の言葉を話す。

こうした保育園の多様な環境を考えると私は息子の質問に納得してしまった。

彼自身もすでにその時、ドイツ語と日本語を話していたし、彼の周りも多くが最低2か国語を話していたから、息子はそれがフツーと思っていたのである。

ウィーンの就学児童の半数以上が外国籍

今日の新聞をみたら、
「ウィーンの就学児童の二人に一人が外国籍を持つ」
と書いてあった。読んでみると、実に52.7%の就学児童が外国籍を持っている。そして、25歳以下の外国籍を持つ子で一番多い国籍は、

1.ドイツ 2.ルーマニア 3.シリア 4.アフガニスタン 5.セルビア

ドイツは隣国だしドイツ語だから当然である。思えば、ルーマニアからも80-90年代独裁政権で政治も腐敗しており(今も?!)、エリートたちが国外に避難していた。私が最初に勤めた事務所でもルーマニア人のとても優秀な建築家たちが働いていた。シリア、アフガニスタンからも難民でオーストリアに来た人が多い。セルビアからは70年代に労働者が足りなく、オーストリアが「ウェルカム」した時代に多くやってきて、その人たちは今オーストリアの国籍を取得しているから、多分ボスニア・ヘルツェゴビナとの内戦時代に親戚を頼ってやってきた人たちが多かったのかもしれない。

そういえば、マホット君はご両親がセルビア人だったっけ。そして、彼も息子の親友だった。ボスニア人のゲント君と3人でいつも遊んでいた。

700kmくらいしか離れていないところで、ボスニアとセルビアの悲惨な内戦が行われていた時でも、マホット君とケント君と息子は大親友でいつも一緒にいた

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(上の写真は1930年代に建てられたウィーンの保育園)

日本の幼稚園で外国人と言われた息子

息子が5歳の時、私は日本で一級建築士の試験を受けていたので、一次試験と二次試験の間の3か月半、息子と日本の実家にいた。

ちなみに、実家は千葉なのだが、私の両親は父の退職後、千葉市から海の近くに移り住んでいた。移り住んだのは、90年代に田舎に乱立した「畑を住宅地にした分譲地」でも、夢の家庭菜園が出来るようになって母は本当に嬉しそうだった。

こんなに長く日本に滞在する機会はないので、私は5歳の息子を幼稚園に行かせることにした。その時の話。

幸い近所の仲のいい子が同じ組だったので、息子は幼稚園に行くことが嬉しそうだった。

ある日(また、ある日!)幼稚園から帰ってきた息子が、私にこう言った。

「ママ、僕は外国人なの?」

よくよく聞いたら、幼稚園の友達が、君って外国人なの?って聞いたそうな。息子の父親はオーストリア人、だからハーフには違いないのだけど。

実家は、田舎なのだが、昔から代々住んでいる人たちと、東京や横浜などの首都圏から自然と庭付き一戸建てを求めて移ってきた人たちが住んでいる場所。幼稚園ももちろんこの両方の家から子供たちが来ている。

いじめ?と一瞬思ったのだけど、純粋に質問している息子を見るとそうではない様子。単なる「素朴なギモン」といった感じ(笑)

きっと、大家族で住んでいる家でおばあちゃんが、孫の話を聞いて

「そうなのかい。外国から(どこかはわからんが)来てるのかい。じゃあ、その子は外人さんかい?」

と、これも「素朴なギモン」を発したので、クラスの子は息子にそのままそれを聞いたんだろう。

息子は小さい頃は毎年私に連れられて夏休みに実家に来ていたので、日本語はペラペラで、外見も日本人の私にどちらかというと似ていたが、ハーフ特有のその整いすぎた顔立ち(うらやましいことに…笑)はやっぱり純粋な日本人とチョット違う。

むろん、幼稚園の子供たちのママさんたちからは大モテで、しかも外国語を話すから、「すっごーい!」と羨ましがられてもいた。しかし、みんな「ハロー!」と話しかけてくるので、ドイツ語と日本語しか話さなかった息子は「?」という感じだった(笑)

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(この時ついでに七五三もした…なつかしい笑)

その時、私が息子に言ったこと。そして多様性とは?

「僕は外国人なの?」という質問を受けて、結局、その時私が5歳の彼に言ったことは、

「うん、日本に住んでいる人にとってはそうだと思うよ。だって、あなたはパパがオーストリア人、ママが日本人だから、オーストリア人であって日本人なんだよ。だから、ドイツ語も日本語も話せる。どちらの国も知っているでしょ。」

ようするに、「ハーフ」半分じゃなくて、「両方」

この説明が5歳の彼にちゃんとわかったかどうか今もわからないけど、その後、「フーン!そっかー。」といって、近所の仲良しのしょう君のところへ遊びに行ってしまった。

今、大学生になった息子はウィーンで建築を勉強しているけれど、彼の今の友達もオーストリア、ドイツ、フランス、ハンガリー、ロシア、ブルガリア、スロヴァキアから…と幅広い(笑)

もちろん、そんな環境で育ってきた彼だから、「多様性」なんてあたりまえで、「多様性!」とか叫ぶ必要もなく日常をすごしているようだ。

子供の育つ環境ってすごく大きいと思う。そして、それは親の価値観次第であるところも大きい。

今の子供たちが大きくなったときに、「多様性」とか叫ぶ必要もないほど「多様な世の中」になるような環境を整えてあげるのは私たちの大事な仕事であると思う。

考えてみると、

「ハーフ」っていう言い方もこちらではしないなぁ(笑)

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今日もお読みいただきありがとうございました。いつもは長文ですが、今日は少し短め(?)に書きました :))

#多様性 #ダイバーシティ #ウィーン #ヨーロッパ #教育 #海外在住 #子育て #幼稚園 #外国語 #ライフ

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9月7日(火)よる10時から眞島かな子さんのFacebookライブに出演します。眞島さんは 株式会社ネクストエールを主宰、インクルーシブの普及活動をされています。オーストリアの教育のダイバーシティ事情や学校の様子をお話ししたいと思っています。ご興味・お時間ある方はぜひ!

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Posted by Miyako Tsutsui-Nairz on Friday, September 3, 2021

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