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就職をあきらめて、全身に白をまとう

全身に白をまとった。
白いブルゾン、白いブラウス、白いプリーツスカート、そして白いスニーカー。

春休み中の大学は閑散としている。門をくぐってから、警備員以外とはすれちがわなかった。
銀杏並木にはまだ一枚の葉もついていない。薄曇りで、色彩のないくすんだ構内。
その中で白を着た私は、浮いているな、と思った。

それが心地よかった。
私自身もまた、世界から浮いているから。

前日のカウンセリングで、「今後フルタイムで働くのは難しいかもしれませんね」と言われた。
私は双極性障害で、しばらく鬱の時期が続いていた。アルバイトも休む日が連続するようになった。そんな私を見てのことばだった。それが正しい現状の把握なのだろう。


精神疾患とは、どう人生をあきらめていくかである。

希望する授業を取ることも、自分が望んだだけ出席することも、よい成績を取ることも。全部仕方がないと思ってあきらめてきた。
でも、私は夢を持ってしまった。大手企業で学びたいことがあった。その知識を使って世界をよくしたかった。

でも、やっぱり、精神疾患とはあきらめていくことなのだな。

カウンセラーの前では泣かなかった。


そして今、すっかり世界から宙ぶらりんになってしまった。
そんな自分にふさわしい制服は、真っ白だと思った。思ったというより、直感的に白に手を伸ばした。

鬱になると、服の着方がわからないときがある。服の選び方が、そしてどう袖を通すかということが、わからなくなってしまうのだ。
でも、この真っ白な一式だけはわかった。そのことは救いであり、同時になんだかとても哀しいことだとも思った。

私はnoteを書き始めた。
noteには、宙ぶらりんな自分のことを綴っている人がちらほらといた。それでいいのかもしれないと思った。
宙ぶらりんなままでもいられる場所を見つけたような気がした。
宙ぶらりんなままでも白い服だけは着られるのと同じように。

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