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古事記百景 その十八

宇気比の儀

故爾各中置天安河而カレココニオノモオノモアメノヤスノカハヲナカニオキテ
宇氣布時ウケフトキニ
天照大御神アマテラスオホミカミ
先乞度建速須佐之男命マヅタケハヤスサノヲノミコトノ所佩十拳劒ミハカセルトツカツルギヲコヒワタシテ
打折三段而ミキダニウチヲリテ
奴那登母母由良邇ヌナトモモユラニ。…此八字以音下效此…
振滌天之眞名井而アメノマナイニフリススギテ
佐賀美邇迦美而サガミニカミテ。…自佐下六字以音下效此…
於吹棄氣吹之狭霧所成神御名フキウツルイブキノサギリニナリマセルカミノミナハ
多紀理毘売命タキリビメノミコト。…此神名以音…
亦御名謂奧津嶋比売命マタノミナハオキツシマヒメノミコトトマヲス
次市寸嶋比売命ツギニイチキシマヒメノミコト
亦御名謂狭依毘売命マタノミナハサヨリビメノミコトトマヲス
次多岐都比売命ツギニタギツヒメノミコト。…三柱此神名以音…

速須佐之男命ハヤスサノヲノミトコ
乞度天照大御神所纒左御美豆良アマテラスオホミカミノヒダリノミミヅラニマカセル八尺勾璁之五百津之美須麻流珠而ヤサカノマガタマノイホツノミスマルノタマヲコヒワタシテ
奴那登母母由良邇ヌナトモモユラニ
振滌天之眞名井而アメノマナイニフリススギテ
佐賀美邇迦美而サガミニカミテ
於吹棄氣吹之狭霧所成神御名フキウツルイブキノサギリニナリマセルカミノミナハ
正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命マサカアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト
亦乞度所纒右御美豆良之珠而マタミギリノミミヅラニマカセルタマヲコヒワタシテ
佐賀美邇迦美而サガミニカミテ
於吹棄氣吹之狭霧所成神御名フキウツルイブキノサギリニナリマセルカミノミナハ
天之菩卑能命アメノホヒノミコト。…自菩下三字以音…
亦乞度所纒御𦆅之珠而マタミカツラニマカセルタマヲコヒワタシテ
佐賀美邇迦美而サガミニカミテ
於吹棄氣吹之狭霧所成神御名フキウツルイブキノサギリニナリマセルカミノミナハ
天津日子根命アマツヒコネノミコオト
又乞度所纒左御手之珠而マタヒダリノミテニマカセルタマヲコヒワタシテ
佐賀美邇迦美而サガミニカミテ
於吹棄氣吹之狭霧所成神御名フキウツルイブキノサギリニナリマセルカミノミナハ
活津日子根命イクツヒコネノミコト
亦乞度所纒右御手之珠而マタミギリノミテニマカセルタマヲコヒワタシテ
佐賀美邇迦美而サガミニカミテ
於吹棄氣吹之狭霧所成神御名フキウツルイブキノサギリニナリマセルカミノミナハ
熊野久須毘命クマヌクスビノミコト。…并五柱。自久下三字以音…


二柱の神はあめやすかわを挟んでお立ちになり、宇気比が始まります。
最初に天照大御神が速須佐之男命が佩いてらっしゃる十拳剣を手に取り、三段に打ち折り、天之真名井あめのまないですすぎ、噛みに噛んで、吹き出した息が霧になったところからお生まれになったのが、多紀理毘売命たきりびめのみこと、またの名を奥津島比売命おきつしまひめのみこと
次に市寸島比売命いちきしまひめのみことまたの名を狭依毘売命さよりびめのみことがお生まれになりました。
次に多岐都比売命たきつひめのみことがお生まれになりました。
このように十拳剣から三柱の女神がお生まれになりました。
今度は速須佐男命が天照大御神の左の美豆羅に纏めてあった、八尺勾玉の五百津の美須麻流の珠を手に取り、天之真名井ですすぎ、噛みに噛んで、吹き出した息が霧になったところからお生まれになったのが、正勝吾勝ゝ速日天忍穂耳命まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみことです。
また、右の美豆羅に纏めてあった同じ種類の勾玉を噛みに噛んで、吹き出した息が霧になったところからお生まれになったのが、天之菩卑能命あめのほひのみことです。
また、御縵みかずらに纏めてあった同じ種類の勾玉を噛みに噛んで、吹き出した息が霧になったところからお生まれになったのが、天津日子根命あまつひこねのみこと
また、左手に纏めてあった同じ種類の勾玉を噛みに噛んで、吹き出した息が霧になったところからお生まれになったのが、活津日子根命いくつひこねのみこと
また、右手に纏めてあった同じ種類の勾玉を噛みに噛んで、吹き出した息が霧になったところからお生まれになったのが、熊野久須毘命くまのくすびのみこと
このように八尺勾玉の五百津の美須麻流の珠から五柱の男神がお生まれになりました。


※天の安の河とは高天原に流れる川のことです。
※天之真名井とは高天原にある神聖な井戸のことです。
※御縵とは蔓草で作られた髪飾りです。


「太安万侶です。宇気比によって新たに八柱の神が誕生しました。ゲストは天照ちゃんと速須佐之男くんです。宇気比は上手くいったということでいいのかな?」
「一応の作法に則り、つつがなく終わったのではないかと思っておりますわ」
「僕もそう思います」
「確認なんだけど、そもそもは速須佐之男君の無実と言うか、赤心を見せるための行いだよね」
「その通りです」
「僕も異論ありません」
「天照ちゃんに聞くけれど、須佐之男君に異心のないことが証明されたのかな?」
「宇気比がつつがなく終わったことで、それは証明されたと見るべきかと」
「僕も異論ありません」
「そうすると須佐之男君は、ようやく天照ちゃんにお別れが言えるんだね」
「お姉さまは、お暇じゃないでしょうから、お時間がある時にご挨拶させていただこうと思っています」
「前口上を聞いてしまったようなものだから、ホントにもういいわよ」
「最後くらいキチンとしませんと、またどこからかクレームが来るとも限りませんから」
「慎重に慎重を重ねてということなら、仕方がないから付き合ってあげるわ。でも当分時間ないわよ」
「ご心配なく。高天原には知り合いも多いので、その方々にも別れの挨拶をしに行きますから」
「そう、じゃあ時間が取れそうなら連絡するわね」
「はい、よろしくお願いします」
「安万侶のおじ様、わたくしは途中退席でもいいかしら」
「忙しいなら、こっちは気にしなくていいから」
「すみません、ではこれで失礼します」
「須佐之男君は大丈夫なの?」
「今日のスケジュールはこれだけですから、お付き合いしますよ」
「それは申し訳ないね。じゃあちょっと聞きたいんだけどいいかな」
「お答えできることならいくらでも」
「宇気比の占いであらかじめ決められた結果は何だったのかな」
「それが少々ややこしいことになっていまして」
「どういうことかな?」
「生まれてくる子が男子なら僕が正しくて、生まれてくる子が女子ならお姉さまが正しい。これが決められた結果だったと思うんですけど、僕の持ち物を使ってお姉さまが女子を生んだり、逆にお姉さまの持ち物を使って僕が男子を生んだりしていますから、結論付けが面倒なんですよ」
「確かにそうだね。何故相手の持ち物を使って神生みをしたんだろ」
「お姉さまにその点は聞いてませんね。お姉さまは僕たち兄弟の長女であると同時に、僕たち高天原の頂点なんですから、何でも有りなんですよ」
「では、お姉さんから聞くしかないね」
「そうでしょ?」
「それにしてもややこしいよね」
「単純に生んだ神で考えれば、僕は男子を生んでいますから、僕の勝ちになりますし、生むときに使ったアイテムがお姉さまの物だから、お姉さまが男子を生んだと言えなくもないですよね」
「結局結論はどうなるの」
「お姉さまに一任してきました。その結論に従うつもりです」
「それは殊勝な心掛けだね」


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