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古事記百景 その二

別天神

 天地初発之時アメツチノハジメノトキ
於高天原成神名タカマノハラニナリマセルカミノミナハ
天之御中主神アメノミナカヌシノカミ。…訓高下天云阿麻下效此…
次高御産巣日神ツギニタカミムスビノカミ
次神産巣日神ツギニカミムスビノカミ
此三柱神者コノミハシラノカミハ
並独神成坐而ミナヒトリガミナリマシテ
隠身也ミミヲカクシタマヒキ
次国稚如浮脂而ツギニクニワカクウキアブラノゴトクシテ
久羅下那州多陀用幣流之時クラゲナスタダヨヘルトキニ。…流字以上十字以音…
如葦牙因萌騰之物而アシカビノゴトモエアガルモノニヨリテ
成神名ナリマセルカミノミナハ
宇摩志阿斯訶備比古遅神ウマシアシカビヒコヂノカミ。…此神名以音…
次天之常立神ツギニアメノトコタチノカミ。…訓常云登許訓立云多知…
此二柱神亦独神成坐而コノフタハシラノカミモヒトリガミナリマシテ
隠身也ミミヲカクシタマヒキ
上件五柱神者カミノクダリイツハシラノカミハ
別天神コトアマツカミ


天地が初めて表れた時、天の高天原たかまのはらに現れられた神は、天之御中主神あめのみなかぬしのかみです。
次に高御産巣日神たかみむすひのかみ、さらに神産巣日神かむむすひのかみが現れました。
この三柱は独神ひとりがみで、すぐに身を隠されました。
この頃の国はまだ幼く、あぶらのように水に浮いている状態で、久羅下くらげのように漂っていました。
そんな状態の中、葦の芽がぐんぐん伸びるように、宇摩志阿斯訶備比古遅神うましあしかびひこじのかみが現れ、次に天之常立神あめのとこたちのかみが現れました。
この二柱も独神で、すぐに身を隠されました。
この五柱の神を別天神ことあまつかみといいます。


※神は、一人、二人とは数えません。一柱、二柱と数えます。
※独神とは、男女の別のない神を言います。もっと直接的な表現をすれば、
 雌雄同体の神を言います。
※最初から三番目までに現れられた神を別天神とは別に造化の三神と言いま
 す。


「太安万侶です。皆様の中には、この時点ではまだお生まれになっていない伊邪那岐神と伊邪那美神が世の一番最初の神だと思ってらっしゃる方も多いのではないでしょうか。ひょっとすると、ずいぶん先にならないとお生まれにならない天照大御神が最初の神だと思ってらっしゃる方も? 実は、彼らがお生まれになる以前にも多くの神がいらっしゃるのですよ。そして今回、隠れていた別天神を引っ張り出してきました」
「何か用かよ」
「ちょっと、インタビューさせてほしいんだけど」
「インタビューだってよ」
「お前答えといて」
「ちょっと聞いてくれるかな」
「何だよ面倒だなあ」
「皆さんは、最初から五番目までに現れた神だけど、すぐに隠れてしまうよね。どうしてなの?」
「最初に現れたと記録しておきたいだけで、特に理由はないね。単なる顔見世だよ」
「でも、出番がここだけの神もいるじゃない」
「こんなヤツもいるよってことでいいんじゃないの」
「最初に現れたんだから、何か意図があったとか?」
「そんなことは考えてなかったな」
「出てきたものの、やることなくてすぐに引っ込んだって感じだもんな」
「そうね。何でここなんだよって、やっちまった感が拭えないのよね」
「出番はここじゃなくても良かったんじゃねえのって今でも思ってるよ」
「この後次々と神が現れるから、ここしかなかったってことでしょ?」
「まあ、歴史上最初の神になったんだから、それでいいんじぇねえの」
「でも、私たち思ったより有名じゃないわよ」
「名前くらいは知ってるんじゃないの」
「そうでもないみたいだぜ」
「有名になりたい訳じゃないけど、名が知られてないのはちょっと悲しいな」
「この後で生まれてくる超有名な二神に全部持ってかれてんだろ?」
「まあな、活躍の度合いが違うからな」
「お前って活躍してたっけ?」
「そんなこと言い出したら誰も活躍などしてないわよ」
「そりゃそうだよ。出てきて消えるだけだもん」
「それも一度きりだしな」
「何度も出たり消えたりするのは、モグラ叩きみたいになるぞ」
「ゲーセンかよ」
「それよりさ、みんなを集めて大昔の話が聞きたいなんて、何かあったの?」
「特別意味はないんだけど、みんなと話すと、昔聞いたことなんかが蘇るんじゃないかと思ってね」
「なんだそうなの? 私たちが現れた頃の話を聞かせて欲しいっていうから、大昔のことなのに、何かあったのかと思っちゃったわよ。」
「じゃあ、用は済んだってことだな」
「引き揚げますか」
「もういいよね?」
「よくなかっても引き上げようぜ」
「そうだな」
「じゃあね、バイバイ」
「お役目終了だ」
「お役目ってほど大層でもねえだろ」
「何度も言うが、出てきて消えるだけだからな」
「いいわね、私なんかずっと後だけど、何度か出番があるから、待つのに疲れちゃうわよ」
「俺もそうだよ」
「それはそれで面倒だな」
「後で出番が控えている者同士で少し話しなんかしちゃう?」
「飯でも食いながらそうするか」
「ご苦労様でしたっと」
「次はいつ会えるのか分からないけど、みんな元気でね」
「あっちょっと待ってよ、ねえ待ってってばあ。ああ、また隠れちゃったよ。仕方ないからこれで終わりにしましょうか。そうそう、余談になりますが、前節で私の官位が従三位になっていますが、あれは明治になってから追贈されたものであり、生きている間の官位は従四位下が最高位ですので誤解のなきように。それではまた次回。ああそうだ、木曜日は確定としましたが、投稿が間に合えば月曜も頑張ろうと思います。よろしくです。」


古事記百景 その一 はこちらからどうぞ。

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