見出し画像

古事記百景 その十五

於是詔之上瀬者瀬速ココニカミツセハセバヤシ
下瀬者瀬弱而シモツセハセヨワシトノリゴチタマヒテ
初於中瀬墮迦豆岐而ハジメテナカツセニオリカヅキテ
滌時ソソギタマフトキニ
所成坐神名ナリマセルカミノミナハ
八十禍津日神ヤソマガツヒノカミ。…訓禍云摩賀下效此…
次大禍津日神ツギニオホマガツヒノカミ
此二神者コノフタハシラハ
所到其穢繁国之時因汚垢而カノキタナキシキグニニイタリマシシトキノケガレニヨリテ
所成之神者也ナリマセルカミナリ
次為直其禍而ツギニソノガマヲコホリムトシテ
所成神名ナリマセルカミノミナハ
神直毘神カムナホビノカミ。…毘字以音下效此…
次大直毘神ツギニオホナホビノカミ
次伊豆能売神ツギニイヅノメノカミ。…并三神也伊以下四字以音…
次於水底滌時ツギニミナソコニソソギタマフトキニ
所成神名ナリマセルカミノミナハ
底津綿津見神ソコツワタツミノカミ
次底筒之男命ツギニソコヅツノヲノミコト
於中滌時ナカニソソギタマフトキニ
所成神名ナリマセルカミノミナハ
中津綿津見神ナカツワタツミノカミ
次中筒之男命ツギニナカヅツノヲノミコト
於水上滌時ミヅノウヘニソソギタマフトキニ
所成神名ナリマセルカミノミナハ
上津綿津見神ウハツワタツミノカミ。…訓上云宇閇…
次上筒之男命ツギニウハヅツノヲノミコト
此三柱綿津見神者コノミハシラノワタツミノカミハ
阿曇連等之祖神以伊都久神也アヅミノムラジラカオヤガミトモチイツクカミナリ。…伊以下三字以音下效此…
故阿曇連等者カレアヅミノムラジラハ
其綿津見神之子コノワタツミノカミノコ
宇都志日金拆命之子孫也ウツシヒガナサクノミコトノスエナリ。…宇都志三字以音…
其底筒之男命、中筒之男命、上筒之男命三柱神者ソノソコヅツノヲノミコト、ナカヅツノヲノミコト、ウハヅツノヲノミコトミハシラノカミハ
墨江之三前大神也スミノエノミマヘノオホカミナリ


伊邪那岐神は禊をお始めになりました。
そしてこう仰いました。
『上の瀬は流れが速く、下の瀬は流れが弱い』
そして中ほどの瀬に身を浸し、濯がれました。

その時に八十禍津日神ヤソマガツヒノカミがお生まれになりました。
次に大禍津日神オオマガツヒノカミがお生まれになりました。
この二柱の神は黄泉の国の穢れや汚れ、垢から生れた神です。

次にその(わざわいを直すために神直毘神カムナオビノカミ大直毘神オオナオビノカミ伊豆能売イズノメの三柱の神がお生まれになりました。

次に水の底で身を濯がれた時に底津綿津見神ソコツワタツミノカミ底箇之男命ソコツツノオノミコトがお生まれになりました。

次に水の中ほどで身を濯がれた時に中津綿津見神ナカツワタツミノカミ中箇之男命ナカツツノオノミコトがお生まれになりました。

次の水の上の方で身を濯がれた時に上津綿津見神ウワツワタツミノカミ上箇之男命ウワツツノオノミコトがお生まれになりました。

この綿津見神ワタツミノカミの三柱の神は筑前の阿曇連あずみのむらじの祖神になります。
また阿曇連らは綿津見神の子の宇都志日金析命うつしひかなさくのみことの子孫でもあります。
そして底箇之男命、中箇之男命、上箇之男命の三柱の神は墨江の三前の大神です。


※八十禍津日神は禍の神と言われています。
※大禍津日神は凶事を引き起こす神と言われています。
※神直毘神と大直毘神は凶事を吉事に変えてくれる神と言われています。
※伊豆能売は清浄な女神と言われています。
※底津綿津見神、中津綿津見神、上津綿津見神の三柱を綿津見の神としてい
 ます。
※底箇之男命、中箇之男命、上箇之男命の三柱は墨江 (大阪市住之江区) の
 三前 (三社) の大神として祀られており、住吉大神すみよしのおおかみと呼ばれています。


「どうも太安万侶です。今回も那岐君に来てもらいました。聞きたいことがあるんだけど」
「どうした?」
「黄泉の国ってそんなに長く居たのかなあ」
「いや、那美を訪ねて行って、しばらく話をして、あとは門の外で待たされて、待ちくたびれて門の中を覗いて、ビックリして逃げただけだから、そんなに長くは居てないと思うぞ」
「じゃあ黄泉の国の穢れや汚れ、垢は強力ってことだね」
「ああ、そこに引っ掛かってんのか。少なくても垢が溜まるほどには長居してないよ」

「黄泉の国から派生したその二柱の神はまだ生きてるの?」
「おう、元気にやってるようだけど」
「だって、片一方は禍の元だし、もう一方は凶事を起こすんだろ? そんな神って必要なのかなあ」
「善の神ばかりだと意味が半減するじゃん」
「どういうこと?」
「悪いことがあるから、良いことが嬉しいし喜ぶんだろ? 良いことばっかりだと、それが当たり前になっちゃって、嬉しさも喜びもないよな。だから必要悪っているんだよ」

「なんか深いね。那岐君も成長したんだねえ」
「こっちからも質問だあるんだけど」
「何だろ?」
「上の瀬は流れが速く、下の瀬は流れが弱いって、わざわざ書く必要はあったのかな」
「それは当初から私も問題だと思ってたんだけど、稗田阿礼君が何度も言うもんだからそのまま書いただけなんだ」
「そんな理由かよ」
「どんな理由が欲しかったのさ」
「上の方と、中間辺りと、下の方で瀬の速さが違うなら、そこから生まれる神の性格も違うのかなとか」

「その理由いいね。でも那岐君、神の性格まではほとんど書いてないんだよね」
「そうだよな」
「次に書き直す機会があれば、絶対その件は付け足しておくから」
「別に拘ってる訳じゃねえからいいんだけどな」
「機会があればね」

「そういや、もう一個聞きたいことがあるんだ」
「何かな?」
「阿曇連の祖先って話があるじゃん」
「綿津見神の件だね」
「初めて祖先の話が出てきた思うんだけど何故?」
「これからチョクチョクそんな話が出てくることになってたはずだよ。だから、たまたま最初が阿曇連だっただけで他意はありません。それから、現代では阿曇連なんて苗字はないから。子孫がいるとしてもきっと違う苗字だから」
「じゃあ、書く意味あんのか?」
「連綿と続く苗字もあるからね」

「神社の話も初めてだよな」
「そういう話もこれから時々出てくることになってるから」

「これからどんどん複雑になってくる感じだよな」
「だって今までは、国造ったり、神を生んだりばっかりで、苗字なんか関係なかったし、神社自体がなかったんだから仕方ないよ。それに少しは時代に適応していかないとさ」


古事記百景 その一 はこちらから、
古事記百景 その二 はこちらから、
古事記百景 その三 はこちらから、
古事記百景 その四 はこちらから、
古事記百景 その五 はこちらから、
古事記百景 その六 はこちらから、
古事記百景 その七 はこちらから、
古事記百景 その八 はこちらから、
古事記百景 その九 はこちらから、
古事記百景 その十 はこちらから、
古事記百景 その十一 はこちらから、
古事記百景 その十二 はこちらから、
古事記百景 その十三 はこちらから、
古事記百景 その十四 はこちらからどうぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?