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古事記百景 その十

伊邪那美の死

凡伊邪那岐伊邪那美二神スベテイザナギイザナミフタハシラノカミ
共所生トモニウミマセル
嶋十四嶋シマトヲアマリヨシマ
神三十五神カミミソヂアマリイツハシラ
是伊邪那美神未神避以前所生コハイザナミノカミイマダカムサリマサザリシサキニウミマセル
唯意能碁呂嶋者タダオノゴロシマノミハ
非所生ウミマセルナラズ
亦姪子興淡嶋マタヒルゴトアハシマトモミ
不入子之例コノカズニハイラズ。)
故爾伊邪那岐命詔之カレココニイザナギノミコトノリタマハク
愛我那邇妹命乎ウツクシキアガナニモノミコトヤ。…那邇二字以音下效此…
謂易子之一木乎コノヒトツケニカヘツルカモトノリタマヒテ
乃匍匐御枕方ミマクラベニハラバヒ
匍匐御足方而ミアトベニハラバヒテ
哭時ナキタマフトキニ
於御涙所成神ミナミダニナリマセルカミハ
坐香山之畝尾木本カグヤマノウネシノコノモトニマス
名泣澤女神ミナハナキサハメノカミ
故其所神避之伊邪那美神者カレソノカムサリマシシイザナミノカミハ
葬出雲国興伯岐国堺比婆之山也イヅモノクニトハハキノクニトノサカヒヒバノヤマニカクシマツリキ


伊耶那岐と伊耶那美の二柱の神がお生みになった島は十四。
お生みになった神は三十五を数えます。
これは伊耶那美神がなくなるまでにお生みになった島と神です。
ただ、意能碁呂島は場所を特定されていませんので数に含みません。
また、蛭子と淡島も数には入りません。
伊耶那岐神は妻の死を嘆き悲しみ、ご遺体の置かれている周囲で泣き暮らしておられました。
すると、その涙から神がお生まれになります。
香山之畝尾木本かぐやまのうねおこのもとにいらっしゃる泣沢女神なきさわめのかみです。
伊邪那岐神は伊耶那美神の亡骸を出雲国いずものくに伯伎国ははきのくにの境にある比婆之山ひばのやまに葬られました。


※古事記には伊邪那岐と伊邪那美が生んだ神と島は三十五神と書かれていま
 すが、国生みが八つ、島が六つ、神が十七の三十一が正解です。
※香山之畝尾木本は奈良・橿原の木之本町だと言われています。
※泣沢女神は泉の神と言われています。
※出雲国は島根県のことです。
※伯伎国は伯耆国で鳥取県西部を指します。
※比婆之山は鳥取・安来にある比婆山が有力ですが、所説あります。


「太安万侶です。今回はちょっとツラいですね。それから、皆さん欠席ということで、私一人です。それでは、少しばかり那美さんの思い出話でもしましょうか。私が初めて那美さんにお会いしたのは、神世七代の末っ子として誕生された時でした。神々の期待を一身に担った那岐君に半ば隠れるように寄り添っていらっしゃったのがとても印象的でした。那岐君によれば、お兄ちゃん好き好きオーラが全開だったとか。亡くなってしまわれたのは残念で、とても悲しいのですが、大好きなお兄ちゃんと夫婦になり、最後の最後まで一緒に過ごされたのは、少しだけホッとします。仕事モードに入られると、すごくパワフルな方で、誰にも負けない力強さと、仕事に対する誇りをお持ちだったように思います。前回のインタビューで、『那岐、次行くよ』と笑いながら仰られたのが、今も深く思い出に残っています。これでようやくゆっくりとお休みになれますね。どうか安らかにお眠りくださいと、型通りの言葉しか出てこない自分が情けないです。それから、那岐君のことも少し心配です。前回お会いした時も『隙間ができたような』と仰ってたのが印象的でした。何から何までご一緒だった二柱の神ですから、片方がいなくなった感じを推し量ることは出来ませんが、その心痛たるや相当のものだろうと思います。那岐君にはこのまま崩れていってほしくないと思っていますが、私ができることと言えば、本編に関するイベントがない時に焼肉をご馳走する程度のことだけ。歴史の中に今さら入れる訳もありませんが、あとに残された那岐君に寄り添ってあげたいと思うばかりです。那美さんの亡骸は出雲と伯耆の境に位置する比婆山に葬られたと聞いていますが、畿内からはずいぶん遠いですね。なぜそんなに遠くへ葬らなければならなかったのでしょうか。もっと近くにもいい場所はあったでしょうに。向こうに縁者でもいらっしゃるのでしょうか。那岐君のことだから大丈夫だとは思いますが、この場所がこれからの歴史に齟齬を与えないことを切に願います。一度だけでしたが、一緒に食べた焼肉は少々高くつきましたが、今となっては那美さんとの楽しい思い出の一つです。彼女はホントに食欲旺盛で、バクバク肉を頬張りながら、話すことにも旺盛で、食事の間中ずっと食べるか話すかでした。もうあの笑顔も、あの声も、見ることも聞くことさえ叶わなくなりましたが、私たちには多くの島と大勢の神を残してくださいました。それを守り、使い、育てていくことに同じ世界を生きる皆さんにはやって行ってほしいと思います。那美さん、安らかにね」


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