古事記百景 その三
神世七代
次成神名。
国之常立神。…訓常立亦如上…
次豊雲野神。
此二柱神亦独神成坐而。
隠身也。
次成神名。
宇比地邇神。
次妹須比智邇神。…此二神名以音…
次角杙神。
次妹活杙神。…二柱…
次意富斗能地神。
次妹大斗乃弁神。…此二神名亦以音…
次於母陀流神。
次妹阿夜訶志古泥神。…此二神名皆以音…
次伊邪那岐神。
次妹伊邪那美神。…此二神名亦以音如上…
上件自国之常立神以下。
伊邪那美神以前。
并称神世七代。
(上二柱。独神各云一代。次隻十神。各合二神云一代也。)
次にお生まれになるのが、国之常立神。そして豊雲野神です。
この二柱も独神で、すぐに身を隠されました。
次に宇比地邇神と須比智邇神がお生まれになります。
次に角杙神と活杙神がお生まれになります。
次に意富斗能地神と大斗乃弁神がお生まれになります。
次に於母陀流神と阿夜訶志古泥神がお生まれになります。
次に伊耶那岐神と伊耶那美神がお生まれになります。
二柱の独神と、その後の五組十神を合わせて、神世七代と言います。
五組の神々は男女一対であり、夫婦神です。
※夫婦神のうち女神のことを、古事記の中ではすべて妹と書かれています。
「太安万侶です。今度は神世七代の皆さんに集まってもらいました」
「何を話せばいいのさ」
「昔に聞けなかったから教えてほしいんだけど、最初の二神は独神だよね。そして他の五組十神は夫婦神だよね。何で別天神の方へ入らなかったの?」
「実は遅刻しちゃったんだよね。それに次のグループでもいいかなと思ってたから」
「そんな理由なの?」
「超有名な二神の前に、これくらいの数の神がいましたよってだけでしょ」
「超有名な二神のための前振りみたいなものだから、」
「だから、いてもいなくてもいいんだよ」
「なんか投げ遣りだね」
「だって、私たちは何かをしましたという訳でもなくて、一番下の弟と妹に丸投げなんだからさ」
「投げ遣りというよりは無気力の方がピッタリくるよね」
「話を変えようか。夫婦神は、元々兄妹のようだね」
「兄と妹の婚姻は我々神の特権なんだよ。だから何も問題ない」
「でも人間には禁じられてるようだけど」
「言ったろ、神の特権だと。だから人間には許してないんだよ」
「人間て猿みたいなもんで、一度覚えるとそればっかりになるじゃん」
「そうそう、兄と妹って結構危険なんだよ」
「血が濃くなり過ぎると突然変異種なども生まれるしな」
「俺たちはさ、どこかの宗教みたいに『神に似せて人を造る』なんて考えてないし」
「だから暴走されないように、制限を掛けておくんだよ」
「人間て素直でもあるから、教えたことは守ってくれるんだよね」
「兄ちゃんも姉ちゃんも好き勝手なこと言ってるけど、この先苦労するのは俺と妹なんだから、少しは自重してくれよな」
「君が伊邪那岐君?」
「超有名な俺たちのスパースターだよ」
「皆の期待を一身に担う。そう、俺が伊邪那岐だよ。そしてこいつが悲劇のヒロイン、伊邪那美だ」
「那岐とは行き違いもあったりしたけどさ、いい思い出もいっぱいあるんだ」
「安万侶、古事記に載ってないことは言っちゃいけないんだろ?」
「できればその方がいいけど、新しいエピソードがあってもいいかなって思ってるところもあるんだ」
「なら、一発かましちゃってもいいかな?」
「君たち二神はこれからしばらく出続けるんだから、こんなに早くネタ出ししなくてもいいよ」
「じゃあ、兄ちゃんや姉ちゃんたちの話は何かねえの?」
「俺たちは地味な存在だから、今さら脚光浴びたくはないんだよ」
「ねえねえ、脚光浴びたらさ、〇〇物語みたいに別のオファーが来ることとかあるかなあ?」
「お前は有名になりたいのか?」
「だってさ、この先も何事もなくダラダラ過ごすだけだと考えるとさ、少しくらい違うことが起こってもいいかなって思うじゃない」
「確かにみんな退屈してるよな」
「兄ちゃんも姉ちゃんも退屈してるんなら、ちょっとは手伝ってくれよ」
「それは古事記に載ってないからダメだろ」
「載ってないからダメってのは変だろ。そもそも兄ちゃんたちが何もしてこなかったから載ってねえんだろが」
「そうやって全部私たちに押し付けるんだから、そうでしょ那岐」
「そうだよ。だから手伝っても罰は当たらないと思うぜ」
「いまさらそんなことを言われてもなあ」
「誰か手伝ってもいいって言うヤツはいるか?」
…………
「ほらな、誰もいないだろ」
「みんな退屈してるのに仕事は嫌なんだよ。仕方ない、下の弟と妹には仕事があるだろうから、それ以外のメンバーで温泉でも行くか」
「結局俺たちは除け者かよ。那美はどう思う?」
「那岐と私だけで何とかなるんだから、兄ちゃんと姉ちゃんには楽しんでもらおうよ」
「お前はいい妹だよなあ」
「そうと決まれば温泉に出発だ」
「行っちゃいましたね」
「行っちゃったね」
「行っちゃったわね」
「君たち二柱の神は、兄や姉たちに虐げられているように見えるけど、どう思ってるの?」
「虐げられているとは思わないけど、あの人たちはいいよなあ」
「外国の話だけど、末っ子が姉さんたちに虐められて苦労するんだけど、最後は王子様と結ばれるって話があるよ、シンデレラだったかな?」
「死んでら? それは大胆なタイトルだけど、ちょっとヤバくねえか」
「那岐はこれだから面白いんだよね。兄ちゃんたちは当てにできないから、那岐と私だけで頑張ろうね」
「仕事が一段落したら、俺たちも温泉行こうな」
「そんな日が来るのかなあ?」
「来るさ、来るよ、来るんじゃねえの、来ればいいなあ」
「それではまた次回」
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