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古事記百景 その十六

三貴子誕生

於是洗左御目時ココニヒダリノミメヲアラヒタマヒシトキニ
所成神名ナリマセルカミノミナハ
天照大御神アマテラスオホミカミ
次洗右御目時ツギニミギリノミメヲアラヒタマヒシトキニ
所成神名ナリマセルカミノミナハ
月讀命ツクヨミノミコト
次洗御鼻時ツギニミハナヲアラヒタマヒシトキニ
所成神名ナリマセルカミノミナハ
建速須佐之男命タケハヤスサノヲノミコト。…須佐二字以音…

右件八十禍津日神以下ミギノクダリヤソマガツヒノカミヨリ
速須佐之男命以前ハヤスサノヲノミコトマデ
十四柱神者トオアマリヨハシラノカミハ
因滌御身所生者也ミヲソソギタマフニヨリテナリマセルカミナリ

此時伊邪那岐命大歓喜詔コノトキイザナギノミコトイタクヨロコバレテノリタマハク
吾者生生子而アハミニウミウミテ
於生終ウミノハテニ
得三貴子ミハシラノウヅノミコエタリトノリタマヒテ
即其御頸珠之玉緖母由良邇スナハチソノミクビタマノタマヲモユラニ。…此四字以音下效此…
取由良迦志而トリユラカシテ
賜天照大御神而詔之アマテラスオホミカミニタマヒテノリタマハク
汝命者ナガミコトハ
所知高天原矣タカマノハラヲシラセト
事依而賜也コトヨサシテタマヒキ
故其御頸珠名謂御倉板擧之神カレソノミクビタマノナヲミクラタナノカミトマヲス。…訓板擧云多那…
次詔月讀命ツギニツクヨミノミコトニノリタマハク
汝命者ナガミコトハ
所知夜之食国矣ヨルノヲスクニヲシラセト
事依也コトヨサシタマヒキ。…訓食云袁須…
次詔建速須佐之男命ツギニタケハヤスサノヲノミコトニノリタマハク
汝命者ナガミコトハ
所知海原矣ウナハラヲシラセト
事依也コトヨサシタマヒキ

故各隨依賜之命カレオノモオノモヨサシタマヘルミコトノママニ
所知看之中シロシメスナカニ
速須佐之男命ハヤスサノヲノミコト
不知所命之国而ヨサシタマヘルクニヲシラサズテ
八拳須至于心前ヤツカヒゲムサナキニイタルマデ
啼伊佐知岐也ナキイサヲキ。…自伊下四字以音下效此…
其泣状者ソノナキタマフサマハ
青山如枯山泣枯アヲヤマヲカラヤマノゴトクカラシ
河海者悉泣乾ウミカハハコトゴトニナキホシテ
是以悪神之音ココヲモテアラブルカミノオトナヒ
如狭蠅皆満サバヘナスミナワキ
萬物之妖悉発ヨロヅノモノノワザハヒコトゴトニオコリキ
故伊邪那岐大御神カレイザナギノオホミカミ
詔速須佐之男命ハヤスサノヲノミコトニノリタマハク
何由以汝ナニトカモミマシハ
不治所事依之国而コトヨサセルクニヲシラサズテ
哭伊佐知流ナキイサチルトノリタマヘバ
爾答白マヲシタマハク
僕者欲罷妣国アハハハノクニネノカタスクニニ 根之堅洲国故哭マカラムトオモフガユエニナクトマヲシタマヒキ
爾伊邪那岐大御神大忿怒ココニイザナギノオホミカミイタクイカラシテ
詔然者汝不可住此国シカラバミマシコノクニニハナスミソトニリタマヒテ
乃神夜良比爾夜良比賜也スナハチカムヤラヒニヤラヒタマヒキ。…自夜以下七字以音…
故其伊邪那岐大神者カレソノイザナギノオホミカミハ
坐淡海之多賀也アハミノタガニマシマス


禊の最後に左の目を洗われた時に天照大御神アマテラスオオミカミがお生まれになりました。
続いて右の目を洗われて時に月読命ツクヨミノミコトがお生まれになりました。
最後に鼻を洗われた時に速須佐之男命ハヤスサノオノミコトがお生まれになりました。

八十禍津日神から速須佐之男命までの十四柱の神は禊により身を濯がれた時にお生まれになった神です。
また、この時伊耶那岐神は歓喜され、こう仰られました。

『私には多くの子がいるが、最後に三貴子みはしらのうずのみこを得られたことは大変喜ばしい』
そして、ご自身が身につけられた首飾りを天照大御神に賜り、
なんじ高天原たかまがはらを治めなさい』
とお命じになりました。
その首飾りは御倉板挙之神みくらたなのかみと言います。

次に月読命には、
『汝は夜之食国よるのおすくにを治めなさい』
とお命じになりました。

次に速須佐之男命には、
『汝は海原を治めなさい』
とお命じになりました。

しかし、速須佐之男命は命じられた海原へ赴くこともなく、泣いてばかりいらっしゃいました。
速須佐之男命が泣いてばかりいることで、青々とした山は枯れ山になり、河と海もことごとく乾いてしまいました。
そのため、悪しき神の声が蝿の如く皆の上に満ち、あやかしがことごとく現れ、災いとなりました。

伊耶那岐神は、
『なぜ国を治めずに泣いてばかりいるのか』
と速須佐之男命にお尋ねになります。

速須佐之男命のお答えは、
『私が泣いているのは、亡き母のいる根之堅州国ねのかたすくにに行きたいからです』
これをお聞きになった伊耶那岐神は大層お怒りになり、
『汝がこの国に住むことは許さん』
と追放してしまわれます。

今、伊耶那岐神は淡海おうみ多賀たがにご鎮座されています。


※夜之食国とは夜の世界と言われていますが、正確には分かりません。
※速須佐之男命はお会いになっていない伊邪那美神を母上と思われていらっ
 しゃるようです。
※伊邪那美神のいらっしゃる場所が新たに一つ増えました。それが根之堅州
 国です。比婆山と黄泉の国と根之堅州国の関係は不明です。
※淡海の多賀とは滋賀・多賀町の多賀大社のことです。


「太安万侶です。スゴイ神が誕生しましたね。と言うことでゲストは那岐君と三貴子のお一方、月読命に来てもらいました。那岐君は隠居したのかい?」
「安万侶が言うようにスゴイのが現れたからさ、邪魔しないようにしなきゃなって」
「普通は子たちに命令するとか、一緒にやるとになるんじゃないの?」
「俺はもういいよ。散々那美と一緒にやってきたし、那美がいなくなってからも一人でやってきたから、そろそろ隠居してもいいだろ」
「そうか、おめでとうって言えばいいのかな?」
「そうだな、まあきっと退屈するだろうから、たまには遊びに来てくれよ」
「多賀大社だね。でもどうして多賀にしたの?」
「特に理由はないんだ。ただあの場所が心地良かったんだ。その時、ああ俺はここに住むんだって思ったんだよね」
「直感を信じた訳だね」
「直感てのもちょっと違う気がするけど、まあ満足してるよ」
「それは良かった。必ず遊びに行くからね」
「おう、待ってるぜ」

「じゃあ次は月読君。夜之食国にはもう行ったの?」
「ええ、行きました。少々問題だらけなんで、親父の前だけど、治めるのもちょっと時間がかかるんじゃねえかと思ってるんすよ」
「その問題と言うのは?」
「そもそもの話っすけど、俺の解釈だけど話してもいいすか」
「どうぞ」

「姉貴と俺と弟の役割のことなんすけど、ご承知のように姉貴には高天原、俺には夜之食国、弟には海原でしたよね」
「そう聞いてるよ」
「つまり、姉貴には表の世界を、俺には裏の世界をそれぞれ牛耳れ、弟には下々の連中を手中にしろってことじゃねえかと思ってるんす」

「大胆な発言だと思うけど、那岐君の真意はどうなの」
「三貴子でそれができるなら、やってみればいいと思ってるよ」
「これもまた大胆な発言だ」
「親父もそう考えてるんならもう遠慮はいらねえや。次からはガンガンやってやりますよ」
「ガンガンって?」

「表の世界ってのは高天原に代表される神々の世界っすよ。姉貴はこれを治めることになるんす。でもあいつは結構強えから、多分大丈夫だと思うっす」
「天照は大丈夫か、俺の見立てと同じだな」

「次は俺が治める予定の裏の世界っすね。ここには高天原の反体制派の神々や、徒党は組まねえけど高天原には従わねえ神々や、他の宗教の神や仏などや黄泉の国の亡者どもなど、有象無象や魑魅魍魎が跋扈してるんすよ。そりゃ一筋縄ではいかないっすよ」
「それはそうだろうねえ」
「ちょっと時間が掛かりそうだっていうのはそういうことっす」
「これも俺の見立てと同じだな」

「最後は弟っすけど、こいつが結構曲者なんすよね。会ったこともねえのに那美さんでしたっけ? その方を母親って思える神経もスゴイっすけど、あいつが誰からも文句の出ない人間どもの代表になれるのかが最大の焦点すね」
「弟君が人間の代表に? でも弟君も神様だろ? 人間の代表になれるのかなあ」
「俺は残念すけど、あいつでは無理だと思ってるっす。あいつは末っ子だからか、我がままで、甘えん坊で、泣き虫で、おまけに暴れん坊なんすよね。だから人間には別の懐柔策を考えねえとダメだと思ってるんす」

「それほど俺の見立てとは違わねえな。まあしっかりやれ」
「親父のお墨付きがもらえたんだから張り切らねえとな」
「また話し聞かせてくれるかな」
「話なら、姉貴か弟から聞いてください」
「君からは聞けないの?」
「俺は裏の世界の者っすから、古事記にはこれっきりで、もう登場しないっすよ」
「リモートでもいいからさ」
「多分機会はないと思うんすけど、キッカケがあれば、またお世話になりますよ」

「なんか格好いいよね。ホントに那岐君の息子?」
「いい加減にしろよ安万侶、俺の息子だからに決まってるだろうが」


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