マガジンのカバー画像

三浦豪太の探検学校

312
冒険心や探究心溢れる三浦豪太が世の中について語った日本経済新聞の連載記事「三浦豪太の探検学校」(2019年3月に最終章)の、リバイバル版。わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリ…
運営しているクリエイター

2022年6月の記事一覧

富士登山 装備の心得

2014年9月13日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  ミウラ・ドルフィンズでは今年新たな試みとして「IPPO塾」(いっぽ塾)を行った。これはスタッフが登山のトレーニング方法から山歩きのコツや装備のアドバイスを行う。その集大成として、シーズンの終盤に富士山に行った。僕は講師として参加、久しぶりの富士登山に心が躍った。  富士山は4000㍍にも届きそうな独立峰だ。酸素の希薄さはヒマラヤ登山に匹敵し、独立峰ならではの天気の変化は多くの事故の原因ともなっている。ヒマラヤ登山を

「自然時間」へのスイッチ

2014年9月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先日、毎年恒例の神戸YMCA、サントリーホールディングスが「協働」で開催している無人島キッズキャンプ「余島アドベンチャーキッズキャンプ」に行って来た。  このキャンプは小豆島近くにある、大余島を出発地点として無人島である葛島と千振島をカナディアンカヌーで渡る。今年はこれまで立ち寄るだけであった千振島にてタープ(天幕)を張りビバーク(野営)をすることにしたのでキャンプの日程が1日増えた。  無人島までカヌーを漕ぎ、食事や

高所の筋力低下 体守る?

2014年8月30日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週の鹿屋体育大学、山本正嘉教授が発表した「70、75、80歳でエベレストに成功した三浦雄一郎氏の体力特性」は過去10年以上の三浦雄一郎の体力と形態的変化を基に、どのようにエベレスト登頂に関係したかという内容の論文である。  論文の中で父の体重、体脂肪、除脂肪体重に着目すると、過去10年でそれらの数値の増減が顕著に見られる。体脂肪は体に含まれる脂肪で体重あたりのパーセント表示で表す。除脂肪体重は体重から脂肪を除いた

シェルパと政府の溝

2014年5月10日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  4月18日にエベレストのアイスフォールにて起きた崩落事故により、13人の死者が出た。また現地の決死の救出作業にもかかわらず、現在でも引き上げられないシェルパが3人氷の下にいるという。  今回の事故により、シェルパ達はアイスフォールの安全性、アイスフォールで亡くなったシェルパへの追悼の意、そして改めてエベレストで働くシェルパの安全とその保障の見直しを各隊に呼びかけ、事実上、今期のネパール側からのエベレスト登山はすべて中

エベレスト雪崩で悼む

2014年4月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週、沖縄で講演を控えて待っている時、シェルパの友人から「たった今、エベレストで大きな雪崩がありシェルパが巻き込まれた」と電話が入った。  僕は心配で、すぐにいくつかの国のエベレスト隊の情報を集めた。この事故は「ポップコーンフィールド」と呼ばれる比較的、キャンプ1に近いアイスフォール(氷の滝)の中で起きた。16人のシェルパが亡くなり、数人がまだ氷の下敷きになっている。  「ポップコーンフィールド」の名前の由来はアイス

恐怖と向き合う

2014年4月12日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  毎年春のスキーキャンプでは、スキーに加えて、子供たちに最近僕が行った冒険の報告をしている。今年、選んだ話は先ごろ出演したNHKの「課外授業ようこそ先輩」という番組だ。  「課外授業ようこそ先輩」は著名人が母校を訪れ後輩たちに授業をする番組である。自分がこれまでやってきたことで子供達に伝えられるのは何かと悩んだ末、スキーのジャンプをテーマとして「恐怖」への向き合い方を教えることにした。  札幌の盤渓小学校は日本で最も

登高スピードを計る時計

2014年3月29日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  昨年の今頃はエベレスト出発前、荷造りと父、三浦雄一郎の最終的な体力テストや医療ミーティングで慌ただしく過ごしていた。  アタック前の1ヵ月半前、父は心臓の手術を受けていた。そのため父の心臓がどれくらい機能するのか、そして実際にそれは登山を行うのに十分なのかということが大きな焦点であった。  僕の仕事は心拍数を見ながら父の登るペースを抑えること。オーバーペースだと心拍数が過度に上がり、父の持病の心房頻拍が出やすくなる

高所登山 筋肉が重要だ

2014年8月23日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  登山の運動生理学で知られる鹿屋体育大学の山本正嘉教授が、今年の日本登山医学会学術集会で「70、75、80歳でエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎氏の体力特性」を発表した。  山本教授は父の体力測定を69歳の時から行っていて、僕たちはその都度エベレストへ向けて具体的なアドバイスをもらっていた。今回の発表はこれまで蓄積してきた父の体力の計時的なデータを分析、体力的な視点から70歳から80歳の間になぜ3回もエベレスト登山が成

雪山とファッション

2014年8月16日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  登山に行くと個性的なファッションが目立つようになった。カラフルなレインウェアやスパッツ、山スカートといわれるストレッチ素材に優れた登山用スカート等、本格的な登山服でありながら、それぞれ個性的にファッションを楽しめる。  登山ファッションが面白いのは、それが実用性を兼ね備えた上でのファッションであるからだ。一昔前のウエアはとても保守的で、おしゃれに乏しく山男や体育会系のイメージが強かった。  最近は、山ガールといわれる

川の中の秘密基地

2014年7月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  セルビアとボスニア・へルツェコビナの国境に流れるドリナ川、霧が舞い紅葉で彩られた川の真ん中にぽつんと建つ一軒家がある。ナショナルジオグラフィックの紙面を飾ったある有名な一枚で、先月、その写真を元にテレビ局の取材でセルビアに行って来た。  この様子は先日、テレビ東京の「絶景ハウス」で放映された。しかしその情景とそこでの人々との触れ合いはテレビで放映した以上のものを感じたのでここに改めて書き記したい。  その家はセルビ

富士山とエベレスト

2014年6月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先日、ネパール山岳協会のアンツェリン・シェルパ会長が来日した。アルピニストでNPO法人セブンサミッツ持続社会機構理事長の野口健氏主催の「エベレスト、富士山から考える環境問題」シンポジウムに参加するためで、日本を代表する女性登山家の今井通子さんら6人がパネリストで集まった。  この会は2部制で、第1部は現在のヒマラヤ登山の担い手であるシェルパ(山岳民族)の境遇についてのディスカッションだった。4月18日、エベレストのア

遊びこそスキーの原点

2014年3月22日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  昨年から僕は「NPO法人ナスターレース協会」の理事長となった。  ナスターレースとは、米国生まれの「National Standard Race」の略で、アルペンスキーの全国標準レースシステムのことだ。毎年シーズンの序盤にナショナルチームレベルの選手(ナショナルペースセッター)と公認のペースセッターが集まり、レースを行う。この時のナショナルペースセッターとのタイム差が公認ペースセッターの基本ポイントとなり、全国各地の

幸福感が「薬」に?

2014年3月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  今年も北海道アンチエイジングクラブに行って来た。日中はニセコの雄大な景色の中、スキーを滑り、夕方から各先生の最新の研究発表や講義を聞くことができる、ぜいたくで有意義な学会である。  冒頭が慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授のアンチエイジングアップデートである。  坪田教授は毎年1000本以上の論文を読み、自身も専門であるドライアイの研究に関する論文を世界で最も多く提出している。教授はその中からかいつまんでト