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富士登山 装備の心得

2014年9月13日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 ミウラ・ドルフィンズでは今年新たな試みとして「IPPO塾」(いっぽ塾)を行った。これはスタッフが登山のトレーニング方法から山歩きのコツや装備のアドバイスを行う。その集大成として、シーズンの終盤に富士山に行った。僕は講師として参加、久しぶりの富士登山に心が躍った。

 富士山は4000㍍にも届きそうな独立峰だ。酸素の希薄さはヒマラヤ登山に匹敵し、独立峰ならではの天気の変化は多くの事故の原因ともなっている。ヒマラヤ登山をするつもりで登る山の一つである。 
 そのための装備には気を使う。中でも僕が最も重要に思うのはレインウエア(雨具)だ。これは雨を防ぐのと同時に暴風効果も高い。そのため中にセーターやフリースを着るだけで相当な寒さまで耐えられる。値段は登山装備の中でも3万~5万円と高価であるが、僕の経験上、値段はレインウエアの質に比例する。なぜならそれはその素材がゴアテックスでできているからだ。

 この素材には微細な穴が無数にあり、雨の侵入を外から防ぐ撥水性と汗など内側からの蒸気を外に通過させる透湿性を兼ね備えている。ゴアテックスが表れる前はビニール製のポンチョやゴム製の雨がっぱであったが、これで行動すると汗で体がぬれてしまう。水分は空気の25倍もの熱伝導率があり、雨を防いだとしても、自分の汗で急激に体を冷やしてしまうことになる。そのため低山の登山でもゴアテックス登場以前は、多くの人が低体温症の犠牲になった。
 しかし、それも万能ではない。何度も使っていると撥水性が低下して雨がしみてきてしまう。意外ではあるが、ゴアテックスのレインウエアは洗濯して日陰で乾かし、中温でアイロン掛けをすると撥水性が回復する。(すべてのレインウエアが洗濯機対応ではないのでタグを確認すること)

 今回、富士登山の認識が低いのか、何度か目に余る装備で登山している人を見かけた。ビニール製のポンチョや防水性が望めないもの、銀色のレスキューシートに穴をあけて腕を通してレインウエア代わりにしている人たちとすれ違う。この日の山頂の気温は2度、山頂は初雪も記録されていて、とてもじゃないが軽装の登山は勧められない。
 富士山がヒマラヤ登山に匹敵する山であるという根本的な認識を持ってほしい。


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