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エベレスト雪崩で悼む

2014年4月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先週、沖縄で講演を控えて待っている時、シェルパの友人から「たった今、エベレストで大きな雪崩がありシェルパが巻き込まれた」と電話が入った。
 僕は心配で、すぐにいくつかの国のエベレスト隊の情報を集めた。この事故は「ポップコーンフィールド」と呼ばれる比較的、キャンプ1に近いアイスフォール(氷の滝)の中で起きた。16人のシェルパが亡くなり、数人がまだ氷の下敷きになっている。
 「ポップコーンフィールド」の名前の由来はアイスフォールの上部の比較的緩い斜面にあり、氷河の割れ目が少なくなるフィールドだ。一見、休むのにちょうどよく見られるが、すぐ横にはエベレスト西稜(せいりょう)の急峻な岩肌があり、常に上部から大小さまざまの岩や氷が落ちてフィールドの上ではねるため、この様な名前がつけられた。
 今回は西稜のほうから巨大な氷河の一部が落ちてきて雪崩と言うよりも、崩落事故に近い。

 犠牲になったのは全員、荷揚げをしていた各隊のシェルパたちで、名前のリストも公開され、昨年、三浦隊を手伝ってくれたシェルパの名前をリストの中に発見した。しかし、シェルパは同じ名前が多く同一人物と断定するのは難しい。 
 シェルパは高所に適した地元の部族の名前だ。エベレストがあるクンブ地方のシェルパは結束が固く、それぞれが誰かの兄弟やいとこ、親族や近い友人である。今回事故にあったのは僕たちを手伝ってくれたシェルパかそれに近い関係にある。
 彼らは陽気で、忠実に隊の荷物やルート工作を行い、時には命がけで登山者を守ってくれる。現在のエベレスト登山を支えているのはまぎれもなく彼らであり、僕たちの隊も彼らの力無くしてはエベレスト登頂はできなかっただろう。日本にいて犠牲になったシェルパのご冥福を祈るしかできない自分に歯がゆい思いをしている。

 今回の崩落はエベレスト史上最も多くの犠牲者を出した。エベレスト登山隊、シェルパ社会、それを観光資源として見込むネパール政府に大きな波紋が広がっている。すでにIMG(International Mountain Guide)やAAI(Alpine Ascents International)やそのほかにも大手の商業登山チームが撤退を表明した。今シーズンのエベレストを目指す他のチームにも大きな影響が出るのは間違いない


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