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幸福感が「薬」に?

2014年3月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 今年も北海道アンチエイジングクラブに行って来た。日中はニセコの雄大な景色の中、スキーを滑り、夕方から各先生の最新の研究発表や講義を聞くことができる、ぜいたくで有意義な学会である。

 冒頭が慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授のアンチエイジングアップデートである。
 坪田教授は毎年1000本以上の論文を読み、自身も専門であるドライアイの研究に関する論文を世界で最も多く提出している。教授はその中からかいつまんでトピックを話してくれる。ドライアイの研究や鬱と糖尿病の関係、ビタミンDの最新研究など、多岐にわたる。
 中でも教授が信条とする「ゴキゲン」のサイエンスの最新見識が秀逸である。「ゴキゲン=幸福感」とは、心と体が良好で幸福を感じる状態を指す。
 2011年、米国の社会心理学者のディ-ナーとチャンが「ゴキゲン=幸福感」に関する論文を人生の満足感、プラスとマイナスの感情、楽天的などに分けて統計的にまとめ「Happy People Live Longer」という論文を発表した。その結果「ゴキゲン=幸福感」のある人とそうでない人では9.4年も平均寿命が違うことが分かったという。

 最近の米国の複数の大学が共同で行った研究では「ゴキゲン」について遺伝子レベルで調べたという。彼らは80人の対象者に対して「Hedonic=個人の楽しみを追求」するグループと「Eudaimonic=多くの人と楽しみを分かち合う」グループに分け、白血球の単核球の遺伝子発現を調べた。
 個人の楽しみを優先するタイプは炎症性のサイトカインの活動が上昇する傾向にある。これは細菌やバクテリアに対しての免疫力が上がることを示す。論文では個人的な楽しみを追求する過程で自身がケガをする可能性が高いため、このように発展したのではないかと考察している。
 また多くの人と楽しみを分かち合うタイプは免疫力が上がり、ウイルスと戦う抗体の発現量が増えた。これは複数で楽しみを分かち合うとき、風邪などのウイルス性の病気を広めないためにこうした反応となるのではないかと推測されるという。

 幸福感やゴキゲンというこれまで主観的にしか感じられなかった分野が、今や遺伝子レベルで医療に深く関連している。ウインタースポーツもこれから「薬」として扱われる日も来るかもしれない。

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