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雪山とファッション

2014年8月16日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 登山に行くと個性的なファッションが目立つようになった。カラフルなレインウェアやスパッツ、山スカートといわれるストレッチ素材に優れた登山用スカート等、本格的な登山服でありながら、それぞれ個性的にファッションを楽しめる。
 登山ファッションが面白いのは、それが実用性を兼ね備えた上でのファッションであるからだ。一昔前のウエアはとても保守的で、おしゃれに乏しく山男や体育会系のイメージが強かった。
 最近は、山ガールといわれる若い女性の進出、若手芸人を使ったメディアの登山企画や一般コミック誌に登山漫画が連載されている。富士山の世界遺産登録もあって、これまで中高年が主体といわれていた登山に若い年齢層が多く見られる。

 各メーカーもよりファッション性を重視したウエアのバリエーションが増え、登山専門店に行っても原色系が店内をカラフルに彩っている。
 さらに山のファッションが今度は町のファッションにも影響し始めた。登山道具の一つであるカラビナやチョークバッグ等がキーホルダー、アクセサリー、小物入れとなり、ザックカバーもハンドバッグ等と兼用できるファッション性に優れたものも出てきた。小さくたためる機能的でカラフルなダウンジャケットやレインウェア、各登山メーカーのロゴが入ったシャツ等は一種のステータスとなっている。
 街のファッションが山に戻るという動きもある。一見、街の服でそのまま登山に行くようないでたち、それが最近の登山の「街着」スタイルである。アウトドアと思えないようなしっかりとした襟のついたシャツやスーツに合うようなズボン、これらは速乾性とストレッチ性、あるいは用途に応じて暴風性に優れ、実際に山で着用しても機能的にこれまでの登山服と比べて遜色がない。

 さて、ここまで書いて気付いたのだが、エドモンド・ヒラリー卿が始めてエベレストに登った時、あるいは登山初期のエドワード・ウィンパーがマッターホルンを初登頂した時代、彼らのファッションを見てみるとジャケット、上質のウールセーター、襟のついたシャツ、まるで一般男性ファッション誌から切り抜いたような姿で登山を行っている。改めてファッションは時代を巡るということを実感する。写真は祖父敬三の若い頃のスキーファッションだ。

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