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三浦豪太の探検学校

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冒険心や探究心溢れる三浦豪太が世の中について語った日本経済新聞の連載記事「三浦豪太の探検学校」(2019年3月に最終章)の、リバイバル版。わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリ… もっと読む
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2022年2月の記事一覧

エベレストのお茶会

2013年9月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  5月22日、僕たちはエベレスト登頂アタック前夜、8500㍍地点の中国とネパールの国境にある尾根、通称「バルコニー」で「お茶会」を行った。  これは父雄一郎がベースキャンプで提案したものだが、僕は登頂で少しでも装備を軽くしたいため茶道具を持っていくことは無駄なことと思った。  しかし、嵐の中、登頂メンバーの雄一郎、倉岡裕之、平出和也、そして僕はお茶を囲み、おそらく世界最高所であるお茶会を開くと、とても和やかな気持ちにな

キャンプの学び

2013年8月31日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  今年もYMCA、サントリーと共同で開催する「余島(香川県)アドベンチャーキャンプ」に行ってきた。  余島から子供たちとカヤックをこいで葛島を目指したが、瀬戸内海は気圧の谷間に入り込み、前線が停滞。3日間、大雨、雷、風と厳しい状況を迫られた。そのため出発が大幅に遅れることになった。このキャンプは「アドベンチャー」の冠があるので、いかにこうした待機の時間を過ごすのかが子供にとって絶好の学びの場となると思い、僕は最近のエベ

音楽通じて孤児救う

2013年8月17日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先月、北極のグリーンランドを訪れた際、北緯72度にあるウッパーナヴィックの学校を訪れた。  この時、僕たちの訪問を学校では30人ほどの子供たちが音楽で歓迎してくれた。彼らはイヌイットに古くから伝わる伝統的な踊りを披露したあと、フルート、バイオリン、ピアノなどからなるオーケストラでクラシックを演奏してくれた。  彼らを指揮し、音楽を教えているのはベネズエラ出身のロン・デーヴィス・アヴァレツさん。彼はベネズエラの貧困街出

とける氷山 温暖化映す

2013年7月20日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕たちを乗せた船はグリーンランドの北緯69度にあるイルリサット港に接岸した。イルリサットのフィヨルドには無数の氷山がある。何個かの氷山は海面からは300㍍は飛び出ていると思われるほど巨大なもので、その圧倒的な景色に、イルリサット・アイスフィヨルドがユネスコ世界遺産に登録されるのも納得できた。  氷山の歴史はその色で分かると、氷山と地質学の専門家であり北極や南極等の極地に関する観光政策の専門家、デニス・ランダウさんは

北極圏の寒さ 命育む

2013年7月13日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  エベレストから帰国1カ月後、北極圏を目指しグリーンランドとカナダ領のバフィン島に来た。  父と僕はツアー講師として招かれたが、同時に他の講師のレクチャーも楽しみである。このツアーにはイヌイットの文化ナチュラリスト、氷河・氷山の専門家、考古学者、生物学者、そして世界的な海洋学者であり、父の友人の本庄丕(すすむ)氏も名を連ねている。  僕たちはツアーの序盤、シシミュートという北緯66度、人口5600人の港町に寄港した。

富士山の価値 未来へ

2013年6月29日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」の登録名称で富士山が世界文化遺産に登録された。  ヒマラヤ登山のトレーニングとして富士山に幾度も登ってきたが、その文化的側面も知りたいと思い3年前、富士吉田市にある浅間神社から山頂を目指した。続いて翌年は12世紀、富士山を開山したといわれる末代上人が登ったとされる「村山古道」を田子の浦の海岸線からたどった。  その日は大雨で大宝元年(701年)に建立された村山浅間神社で雨宿りをした。

夢にトキメキ 若さ保つ

2013年6月22日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  日本に帰り、今回のエベレスト登山についての記者会見が行われた。その中の質疑応答の時、記者に交じって地元の老人会の方が手を挙げた。  彼は父、三浦雄一郎に対して「三浦さんのエベレストの快挙には驚いています。しかし、普通の人がエベレストに向かうということはなかなかできません。どうしたらいいのでしょう」と言う。  それに対して父は「重要なことは目標や生きがい、やりがい、そしてトキメキを持つことです。エベレストを目指さなくて

温暖化 北極海を漁場に?

2013年7月27日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  「これから北極圏の海は地球温暖化が進むにつれて、もっと重要な拠点となる」  先日、ウッズホール海洋学研究所の本庄丕(すすむ)名誉教授が北極圏についてこう話してくれた。  地球温暖化について語るとき、グリーンランドや南極の氷が解けることが大きな問題となる。もしグリーンランドの氷がすべて解けてしまうと海水面は約7㍍前後、南極大陸の氷がすべて解けるとさらに約36㍍前後も海面が上がってしまうという。  こうなると沿岸部の都市

「年寄り半日仕事」の実践

2013年6月8日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  2013年5月23日、三浦雄一郎は80歳7カ月で世界最高峰のエベレスト山頂に立った。その後、C2(6500㍍)からヘリコプターで下り、2日後には飛行機で帰るといった慌ただしいスケジュールの中、まるで浦島太郎になったような気持である。  今回のプロジェクトで成功の秘訣を聞かれることが多いが、最近のエベレスト登山には行われていない多くの新しい試みがあった。  一つは父がテーマに上げた「年寄の半日仕事」である。これは昔から

費用だけで比べないで

2013年6月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  エベレスト帰国後、電車の中づりの、ある雑誌の広告に「三浦雄一郎エベレスト登頂は本当に快挙なのか」とあり、その枠下に「総費用1億5000万円!ヒマラヤ遭難死河野さんは200万円」というセンセーショナルな見出しが躍っていた。  この記事は僕たちだけではなく、応援してくださったスポンサーや父が校長を務めるクラークの高校生にまで及び、さらに亡くなった河野千鶴子さんをはじめ登山全体の在り方についても誤解される方向に導きかねない

父の生命力に感謝

2013年6月1日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  今回のエベレスト登頂で最も重要なのは、周囲の景色が山頂の地形とわかる父のマスクを外した証拠写真である。80歳という世界最高齢で登頂したという揺るぎない事実を世界に知らせるためだ。以前、最高齢の記録を作った人物がいたが、彼が頂上に立った写真は1枚も表に出てこなかったこともある。  ところが父はすべての写真撮りでマスクを外してしまった。この高度ではマスクを外して行動すること自体危険極まりない。山頂で50分も費やしてしまった