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費用だけで比べないで

2013年6月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 エベレスト帰国後、電車の中づりの、ある雑誌の広告に「三浦雄一郎エベレスト登頂は本当に快挙なのか」とあり、その枠下に「総費用1億5000万円!ヒマラヤ遭難死河野さんは200万円」というセンセーショナルな見出しが躍っていた。
 この記事は僕たちだけではなく、応援してくださったスポンサーや父が校長を務めるクラークの高校生にまで及び、さらに亡くなった河野千鶴子さんをはじめ登山全体の在り方についても誤解される方向に導きかねないと感じ、改めて検証したい。

 内容は、三浦隊にはスポンサーなどの金銭的サポートがあったため成功、しかし、不幸にも亡くなった河野さんは200万円の費用しか捻出できなかったので遭難、というような書かれ方だった。
 登山費用はすべての隊や個人が最初に考える現実だ。父を含む隊員とシェルパらチーム全員が安全に登頂し下山するのに必要な登山資材、人員、酸素などを計算し、それを支えるキャンプ数やベースと日本での後方支援まで、トップダウン方式に考える。
 プロジェクトは3年前から始まっており、トレーニング合宿や3回の海外遠征、80歳で父がエベレストに登るための医療支援、保険、通信、映像記録やスポンサーを獲得するためのイベント作業も含まれる。1億5千万円は3年間、すべての総予算だ。

 そもそも8000㍍をわずかに超えるダウラギリと9000㍍に近いエベレストでは登山費用の負担は大きく異なる。入山料一つとってもエベレストはダウラギリのほぼ6倍だ。こんな事実については全く触れられていない。河野さんの事故に対する詳細も確かめず、単純に金額のみで比べるのは亡くなった河野さんの登山に対する真摯な姿勢に大変失礼だ。

 記事の最後に「無謀な登山をあおりかねない」とあるが、河野さんも父も命がけで山に挑む。その中でどのように全員が指1本無くさずに生きて帰るか、努力し続けることが登山において最も重要なことだと思う。僕たちは、これから登山の方向性を示す役割を担うという思いで記録をとり、登山の経過報告をしてきた。80歳の父のエベレスト登頂を「快挙か」「無謀か」と、どう思うかは、その過程と事実を知った上での意見であってほしい。記者の名前を出さずに、安全な場所からただ金額だけを強調して批判をしていることはとても残念に思っている。

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