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音楽通じて孤児救う

2013年8月17日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先月、北極のグリーンランドを訪れた際、北緯72度にあるウッパーナヴィックの学校を訪れた。
 この時、僕たちの訪問を学校では30人ほどの子供たちが音楽で歓迎してくれた。彼らはイヌイットに古くから伝わる伝統的な踊りを披露したあと、フルート、バイオリン、ピアノなどからなるオーケストラでクラシックを演奏してくれた。
 彼らを指揮し、音楽を教えているのはベネズエラ出身のロン・デーヴィス・アヴァレツさん。彼はベネズエラの貧困街出身であったが、音楽育成プログラム「エル・システマ」によって救われたという。

 エル・システマは1975年、経済学者であり音楽家であるホセ・アントニオ・アブレウ博士によって始まった。彼は音楽を通じて連帯感、調和、思いやり、そして高度な芸術的センスを育てることができると考え、「質の高い音楽を多くの人に」を理念に貧困や犯罪、麻薬などの負の環境に身を置いている子供たちに音楽を通した救済を始めた。
 この取り組みは貧困格差の大きいベネズエラの政府にも認められ、教育の一環として公的資金が認められている。その理念は現在世界の52の国と地域に広がり、多くの世界的な指揮者や奏者が育っている。
 ロンさん自身も高度なバイオリン、合唱技術を身に付け、一流のオーケストラに所属するまでになったが、音楽によって救われた自身の体験から、グリーンランド最北の果ての孤児たちがいるウッパーナヴィックで音楽を教えて2年になる。

 僕はエル・システマに興味を持ち、日本に帰ってからエル・システマの活動を行っているエル・システマジャパン代表の菊池穣氏にお話を伺った。
 彼は昨年、エル・システマジャパンを立ち上げ、最初の仕事として津波と原発によって大きな影響を受けた福島県相馬市の子供を対象とした音楽育成プログラムを始めた。菊川氏が言うには、エル・システマは音楽の技術に重きを置いた音楽メソッドではない。合奏や合唱を中心にすることによって指導者だけではなく子供たちがお互いに音楽の質を高め合う。
こうした交流によって指導者も子供も前向きに人生を捉えられるようになったという。
 貧困、犯罪、そして自然災害からの負の連鎖を断ち切るのは、つながりを深める音楽を通じた正の連鎖が必要だと感じた。彼らの活動に注目したい。


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