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富士山の価値 未来へ

2013年6月29日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」の登録名称で富士山が世界文化遺産に登録された。
 ヒマラヤ登山のトレーニングとして富士山に幾度も登ってきたが、その文化的側面も知りたいと思い3年前、富士吉田市にある浅間神社から山頂を目指した。続いて翌年は12世紀、富士山を開山したといわれる末代上人が登ったとされる「村山古道」を田子の浦の海岸線からたどった。
 その日は大雨で大宝元年(701年)に建立された村山浅間神社で雨宿りをした。大昔からそこにあり続けた屋根のおかげで良い休養ができた。

 こうした古い道には、今でも平安時代の修験道の山岳信仰の跡が見られる。また富士吉田は江戸時代に神仏習合の富士講が最盛期を迎え、山岳信仰ツアーまで行われていた。その名残も少なからずある。古くから霊峰富士として自然との調和を重視する日本人の精神性に深くつながり、それが文化や宗教的側面に大きな影響を与えた。富士山が世界文化遺産として登録されるのも当然かと思う。
 しかし、僕が懸念するのは世界遺産に指定されたことにより、現在でも年間30万人以上が登山を目的として富士山を訪れているのに、それがさらに増加するのではないかということだ。

 先月、エベレストのベースキャンプにアルピニストで、環境問題に積極的に取り組んでいる野口健さんが応援に来てくれた。その際に富士山の話になり野口さんも同じように危惧しているという。
 野口さんは、これまで13年間、富士山で清掃活動を中心に環境問題に携わってきた。その活動の中で強く感じているのは、世界文化遺産登録後、見込まれるであろう観光客や登山客の受け入れ態勢や設備、制度などが十分ではないということだ。
 制度造りには官民一体で問題意識を共有する必要がある。野口さんは小笠原諸島が世界自然遺産に登録される際、民間人として環境保護のため小笠原に通い続けた。住民やその他の団体の理解を得ながら制度ができるまで10年を要した。

 富士山は2県にまたがり、その間には多くの団体や自治体が存在する。世界遺産についての思惑もそれぞれであろう。世界遺産の本来の目的である富士山の「顕著な普遍的価値の保護」が共有され、未来につながることを願っている。


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