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北極圏の寒さ 命育む

2013年7月13日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 エベレストから帰国1カ月後、北極圏を目指しグリーンランドとカナダ領のバフィン島に来た。
 父と僕はツアー講師として招かれたが、同時に他の講師のレクチャーも楽しみである。このツアーにはイヌイットの文化ナチュラリスト、氷河・氷山の専門家、考古学者、生物学者、そして世界的な海洋学者であり、父の友人の本庄丕(すすむ)氏も名を連ねている。

 僕たちはツアーの序盤、シシミュートという北緯66度、人口5600人の港町に寄港した。グリーンランドはデンマークの統治下にある自治区だ。特にシシミュートの90%はイヌイットであり、イヌイットの風習とデンマークの文化が混ざり合っている。
 シシミュートの肉屋さんの看板を見ると、ふだん見慣れた牛や豚、鶏などの絵はなく、代わりにアザラシ、鯨、ジャコウウシ、海鳥、ウサギ、タラ、サケ、カリブーなどが書いてある。彼らのたんぱく源を補う主食であると、今回の講師の一人でありイヌイットと先住民アートを専門とするジェーン・スプロール・トムソンさんが説明してくれた。
 彼女によるとグリーンランドで最も古い人類の痕跡は4500年前までさかのぼるという。そこには先史時代栄えていたペリオ・エスキモーが漁猟を中心とした生活を行っていた。その後、600年前に、より発達した道具と犬ゾリによる狩猟を発展させたネオ・エスキモーが取って代わった。グリーンランドが彼らにとって豊潤な土地であり日本の縄文時代と同じくらいの歴史を持っていることを話してくれた。

 これまで北極圏というと氷に閉ざされ、冬はマイナス50度にもなる氷の砂漠のような場所を想像していた。そんな土地が「豊潤」というのは驚きだ。
 僕はそのことを確かめるため、シシミュートの雑貨屋で3千円ていどの釣ざおを買い、船から投げ入れた。するとわずか40分で友人3人と20~40センチの30匹以上の真ダラを釣り上げた。
 冷たい海は多くの酸素を含む。そのためオキアミやプランクトンが育ちやすく、それを餌にする魚やさらにそれを食べる大きな魚や海獣がいる。
 イヌイットは温暖な土地よりも豊潤な海を選び、創意工夫を重ねて、現在もグリーンランドをはじめとした北極圏を生き抜いている。人類の持つ強さをグリーンランドで再認識した。

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