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三浦豪太の探検学校

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冒険心や探究心溢れる三浦豪太が世の中について語った日本経済新聞の連載記事「三浦豪太の探検学校」(2019年3月に最終章)の、リバイバル版。わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリ…
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2021年9月の記事一覧

「泳ぐのは僕」こそ真髄

2012年4月14日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週行われた日本選手権の平泳ぎ100㍍で自らの日本記録を上回り、3日後には200㍍でも優勝、両種目ともハードルの高い五輪派遣の基準タイムを軽々とクリアし、初の4大会連続の五輪代表という快挙を成し遂げた。  北京五輪後、充電期間に入り、引退も噂されたが、北島流の休養期間であった。復帰レースに出たあとの2009年11月に北島選手をこのコラムで取り上げたことがある。その時「今復帰しないとロンドン五輪に間に合わないと体が言

「高所登山」で博士号

2012年4月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕がエベレスト遠征を通じて続けてきた研究「登山家におけるヘムオキシゲナーゼー1の構成的発現」の論文が、昨年、米国科学雑誌BBRCに掲載され、その研究の内容が認められたことで、先月末、無事に順天堂大学大学院医学過程を修了した。  卒業証書を手にするまで、周りから「ごんチャンは<ばかせ>なの」と「は」に点々がつくか「せ」がないほう(ばか)かとからかわれていたが、今でも「博士」よりそれに近いのではないかと思う。  「高所登

「ありがとう」を忘れずに

2021年3月31日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週末、選手時代のチームメート、畑中みゆきとミウラドルフィンズの元スタッフの庄司克史から仙台郊外にあるスプリングバレー泉高原スキー場で子供達を対象とした復興支援のスキー教室にゲストボランティアとして呼ばれた。  畑中は宮城県塩釜市出身の元モーグル選手。ソルトレークシティー五輪とトリノ五輪に出場し、現在はハーフパイプという種目でコーチ兼選手として活躍している。  震災後、彼女の呼びかけで松島湾にある桂島で炊き出しを行

ヒグマに学ぶ「畏怖」

2012年3月24日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先日、東京から北海道に来た友人を案内した際、定山渓を経由し、ニセコ方面に向かった。その途中、藤野という町を通り過ぎる。10年位前に地元のニュースで有名になった藤野のある老人の話を思い出し、友人に教えた。  山菜取りをしていた老人が山中でばったりヒグマと出合った。彼は驚き、思わず後ずさりするが、バランスを崩し後方に転んでしまう。その瞬間、ヒグマは襲いかかってきた。覆いかぶさるヒグマを必死に蹴り上げると、それが偶然、柔道

応用力に通じる「基礎」

2012年3月17日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  昨年から僕は全日本スキー連盟(SAJ)公認指導員となったことで、テイネのスノードルフィンスキー学校SAJ校の校長に任命された。そのため北海道地区で毎年行われているスキー指導員研修会への参加が義務付けられた。  今までの僕はこのような指導員、級付けなどとは全く無縁のスキー人生だった。というわけで恥ずかしながら初めての講習会出席となった。  最初の机上講習で講義を聞いたとき、頭の中には無数の疑問詞が浮かんだ。講師の言っ

次世代育てる「ニセコルール」

2012年3月10日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  「ニセコルール」は、ニセコ近隣のスキー場でコース外を滑走するバックカントリースキー、スノーボードを行う人たちを、雪崩や遭難から守るために作られた。ゲートを設置し、オフピステ(スキー場外)へのアクセスをコントロールしたもので、以前このコラムで紹介した冒険家でニセコ雪崩調査所の所長である新谷暁生さんが考案した。  このルールのおかげで、スキーヤー、スノーボーダーが安全に滑れるようになり、オフピステに広がるニセコの大自然を

登りなおす勇気と判断力

2012年3月3日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  標高8千㍍を越える山は地球に14座ある。登山家の竹内洋岳さんが昨年ヒマラヤのチョオユー(8201㍍)を登ったことで、彼は日本人最多の13座となり、今年、最後のダウラギリ峰(8167㍍)を登れば日本人として初の14座制覇の快挙となる。  先日、そのチョオユー報告会に行って来た。2002年、僕も父とチョオユーに登っており、竹内さんほどの登山家だったら楽に登れただろうと思っていたが、実際に彼の話を聞くと壮絶なドラマがあった

回想法で高齢者に学ぶ

2012年2月18日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先日、上智大学心理学科の黒川由紀子教授に依頼され、彼女の講座である老年心理学の授業でゲスト講師を務めた。向上心あふれる学生たちにエベレスト登山や僕自身が行っている研究などについて語るよい機会であった。  黒川教授は臨床心理士で、高齢者への心理療法のひとつとして、1960年代にアメリカの老年精神科医ロバート・バトラー氏が開発した対話を中心とした心理セラピーである「回想法」を行っている。  「回想法を行うとき、私たちは

スキー前のストレッチ

2012年2月4日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週末、志賀高原の焼額山でモーグルキャンプを行った。毎年35人ほどモーグルファンが参加すするこのキャンプは今年で10周年を迎える。  僕はモーグルの技術を指導する前にウオームアップの準備運動をする。こうした準備運動に多くのスキー指導者はストレッチを勧めているが、僕は疑問に思っている。  米国の雑誌編集者兼ライターであるC・マクドゥーガル氏の著書、「BORN TO RUN 走るために生まれた」によると、ハワイ大学におい

父・雄一郎 奇跡の回復

2012年1月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  18世紀から次々とヨーロッパ各地の山が征服されている中、マッターホルンだけは難攻不落の「魔の山」として恐れられていた。しかしエドワード・ウィンパーは当時、イタリア側南西尾根のコースがなだらかでやさしいとされていた常識を覆し、急しゅんな北東のヘルンリ尾根を選び初登頂に成功した。  彼は観察を続け一見、険しく登りにくいように見える斜面も、反対に地層が逆目を向いているので登坂に有利ではと考え、チャレンジに成功した。  1

ロッカースキーの魅力

2012年1月28日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  ロッカーとは英語で「揺りかご」などの意味があり、また、その揺りかごの底にある丸い形状を指す言葉でもある。ロッカースキーとはその名のごとく、揺りかごの足のように前後に丸みを帯びたスキー板だ。  今まで僕らがなじんでいたスキーはキャンパーといって横から見るとむしろ足元(板の中心部)が最も高いアーチ構造になっており、荷重すると平に重心が分散される仕組みだ。  この形状は整地されたゲレンデでは安定性につながるが、ゲレンデを