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スキー前のストレッチ

2012年2月4日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先週末、志賀高原の焼額山でモーグルキャンプを行った。毎年35人ほどモーグルファンが参加すするこのキャンプは今年で10周年を迎える。
 僕はモーグルの技術を指導する前にウオームアップの準備運動をする。こうした準備運動に多くのスキー指導者はストレッチを勧めているが、僕は疑問に思っている。

 米国の雑誌編集者兼ライターであるC・マクドゥーガル氏の著書、「BORN TO RUN 走るために生まれた」によると、ハワイ大学において、事前にストレッチをしたランナーとしなかったランナーを調査したところ、ストレッチをしたランナーがケガをする確立のほうが33%も高かったという。
 2010年にはNTT東日本札幌病院の井上雅之医師らが北海道のスキー指導員1259人にアンケート調査した。すると指導員の30%に膝の靱帯損傷に関する既往歴があり、彼らが普段実践している怪我の防止方法はというと、全体の85%がストレッチだった。
 東京大学大学院総合文化研究科の理学博士でありボディービルダーの石井直方教授によると、同じ姿勢を保ったまま筋肉を伸ばすストレッチは、筋肉の伸び縮みを感知する器官である筋紡錘の感度を低下させ、最大30%の筋力低下が45分ほど続くという。

 では運動前に何をすればよいかというと、温めることが一番だ。温めることによって筋肉代謝に必要な酵素が活発に動き、酸素を隅々まで行き届かせ、筋肉や腱の柔軟性が高くなる。
 氷点下の状況が多く、体が冷えやすいスキー場の条件を考えると、なおさら温めることが重要になる。そんな中で、寒さで筋肉が固まっているのに無理やり伸ばしてもケガを増やすだけだ。
 僕は10年前からスキー前のストレッチはやめている。代わりに、坂を登る、歩き回る、軽く飛び跳ねる、お互いの背中をさする――などを汗ばむ程度まで行うことにしている。

 すべてのストレッチが悪いというわけではない。例えば運動の後や入浴後、十分に体が温まったときに行うのであれば問題は無いであろう。しかしスキーの準備運動として慣例的にケガの防止と思って行っていたものが、実はケガを増やしているのかもしれないのだ。寒さが厳しいこの時期、スキーの前だけでなく普段の運動の前にも温めることを心がけてほしい。

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