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「高所登山」で博士号

2012年4月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 僕がエベレスト遠征を通じて続けてきた研究「登山家におけるヘムオキシゲナーゼー1の構成的発現」の論文が、昨年、米国科学雑誌BBRCに掲載され、その研究の内容が認められたことで、先月末、無事に順天堂大学大学院医学過程を修了した。
 卒業証書を手にするまで、周りから「ごんチャンは<ばかせ>なの」と「は」に点々がつくか「せ」がないほう(ばか)かとからかわれていたが、今でも「博士」よりそれに近いのではないかと思う。

 「高所登山をしたら人はかわるか?」と単純な問いから始まったこの研究を遺伝子レベルまでに発展させて追求することが出来たのは、指導教授の白澤卓二教授と共同研究者や講座の仲間たち、サンプルを提供してくれた登山ガイド、さらには会社と家族のおかげである。
 そしてある意味、僕の研究者としてのルーツとなったのは父(雄一郎)と、高校時代の米国でのホームステイ先、フィル・メルファさんの存在だ。

 父は僕を幼少のころからキリマンジャロ、エルブルースなど海外の冒険旅行へ連れて行ってくれた。「人生の勉強だ」といって、学校を休まされ、さらに天気がいい日は「こんな日和に学校に行くなんてもったいない」とスキーをさせた。勉強の遅れを取り戻すのは大変だったが、それ以上に世界の広がりを肌で感じ、興味を持つことや熱中することを身もって教えてくれた。
 片や下宿先のフィルは米軍の将校で以前はトップガンの指導教官だった。彼は「将来、スキーを続けて活躍したいのなら今はまず勉強だ」と言って、勉強する習慣も無く英語もろくに話せない僕に、毎晩仕事が終わってから夜中の1時過ぎまで勉強を教えてくれた。おかげで米国西部で最もSATスコア(全国共通試験)が高かったローランドホール学院で落第することなく、卒業の時はなんとヘッドマスター(最優秀成績)で終えることが出来た。厳しくも優しく真摯に「勉強」の大切さを教えてくれた。

 全く反対の教育方針の2人のおかげで、42歳の今になっても僕には楽しくも不思議な冒険に満ちあふれ、知的好奇心を刺激してくれる世界が広がっている。息子の雄豪は今年幼稚園に入園する。冒険と勉強の楽しさを一緒に分かちあえる人生でありたい。

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