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「ありがとう」を忘れずに

2021年3月31日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先週末、選手時代のチームメート、畑中みゆきとミウラドルフィンズの元スタッフの庄司克史から仙台郊外にあるスプリングバレー泉高原スキー場で子供達を対象とした復興支援のスキー教室にゲストボランティアとして呼ばれた。

 畑中は宮城県塩釜市出身の元モーグル選手。ソルトレークシティー五輪とトリノ五輪に出場し、現在はハーフパイプという種目でコーチ兼選手として活躍している。
 震災後、彼女の呼びかけで松島湾にある桂島で炊き出しを行い、その縁で昨年夏、復興支援活動の一環として塩釜市の浦戸第二小学校・浦戸中学校の子供達との富士登山が実現した。彼女自身も大好きな叔父を津波によって亡くしており、その思いが地元に密着した継続的復興活動につながっている。
 今シーズン、自分の得意分野であるスキーで子供達に楽しみを教えようと「K2 畑中みゆき震災復興支援スキー教室」を実現させた。5社から協賛を募り、宮城県、茨城県、福島県の沿岸部で被災した96人の子供達のために全員のウエアと道具をそろえた。また70人に及ぶボランティアスキーインストラクターと、僕をはじめ上村愛子ら5人の日本を代表するスキーヤーたちに呼びかけての開催となった。

 豪華で充実した内容ではあるが、このキャンプでもっとも重んじたのは「礼儀」「挨拶」「感謝」であった。最初の受付で、ウエアや帽子、手袋などを子供達に支給するのだが、子供達から自発的に「ありがとう」という声を聞くまでは渡さなかった。それが我々の共通の認識だった。
 彼女はこれまでの支援活動を通じて幾度か支援物資が一言の挨拶もなく持ち去られるのを見ている。決して感謝を求めているのではないが、与えられることが当たり前だと思ってほしくもない。
 「ありがとう」の一言を聞くだけで、僕らボランティアは全てが報われた気持ちになる。そして「ありがとう」の一言が言えることで子供たちは必ず大きく成長すると信じている。この思いをスキーを通じて彼女は教えているのである。

 参加者の多くは始めてスキーをする子供たちだった。初めてリフトに乗り、恐る恐る滑り終え、そして彼らの輝く笑顔を見たとき、ボランティア全員の心に喜びが満ちあふれたのは言うまでもない。

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